手を繋ぐ。不二の手はいつも温かい。不二に言わせれば、オレの手が冷たいだけらしいが。他に手を繋いだことがあると言えば母くらいで。それも幼少の頃なので、その温もりは憶えていない。だから、オレからすれば、不二の手が温かいという事になる。
「もうすぐ衣替えなのにね。君の手は、相変わらず冷たいや」
 何故か嬉しそうに言う。不二は繋いだままのオレの手を頬に当て、気持ち良い、と呟いた。その後で、オレの制服のポケットにその手を入れ、指を絡めた。
「……暑くはないのか?」
 不二の言う通り、もうすぐ衣替えだ。学ランを着ている奴なんて、もう殆んどいない。真夏なんじゃないかと思うほどに、暑い日だってある。それでも。不二はいつもオレと手を繋ぎたがった。汗ばんだ手など握らせたくなかったのだが、不二はそれでもいいといつも微笑うから。
「いつかは。君のラケットに勝ちたいな、なんて思ってね」
「………何だ?」
 意味不明の言葉に訊き返す。不二はそれに答えずに、ただ首を横に振った。
「君の方こそ。暑くないの?」
 言いながらも、オレの腕にくっついてくる。オレは溜息を吐くと、さっきの不二のように首を振った。
「手を離すと、お前は何をするか分からないからな」
「……何それ」
「遊園地の子供と一緒だ」
「あー…。水族館の君と一緒ってことだね」
「……五月蝿い」
「釣りが好きなのは知ってたけど。魚も好きだったんだね。眼を離すと直ぐに居なくなっちゃうんだもん」
 水族館へ行った時の事を思い出しているのか、不二は楽しそうに言った。その姿に、また、溜息を吐く。
「もういいだろう。オレだって子供なんだ。偶にははしゃいだりもする」
「こうみえても、でしょ?」
「……五月蝿い」
 呟くオレに、不二はクスクスと微笑った。ポケットの中の手を強く握り、少しだけ歩調を速めて歩き出す。
「そんなことより」
「ん?」
「あれはどういう意味だ?」
「……あれって?」
「ラケット」
 ポケットから手を出し、不二の目線まで上げる。不二は、ああ、と呟くとその手を元の場所に戻した。速めたばかりの歩調を緩める。
「多分、僕と手をつないでいる時よりも、ラケットを持ってる時間の方が長いでしょ?」
「……それは、お前も同じだろう?」
「そうなんだけど、ね」
 ポケットの中で手を開くと、不二はその感触を確かめるようにして、握り直した。
「でもいつかは、ラケットよりも僕の手に触れてる時間が長くなってくれればなって。その感触も、僕の方が馴染むように。……君の一番であるテニスに勝つとしたら、それくらいしか出来ないから」
 オレの肩に頬を寄せて、微笑う。それを見て、オレは今日何度目かの溜息を吐いた。
「……そんな事を考えていたのか」
「そんな事じゃないよ。僕にとっては重要なんだから」
「じゃあ、馬鹿だな」
「なっ…」
「お前とテニスじゃ、次元が違う。そんなもの、比較出来るわけないだろう?それに…」
 言葉を止めて、不二を見た。見上げている不二は、少し不満そうな顔をしていた。
「それに、何?」
 訊き返す不二から視線を外すように、前方を見た。繋いだ手、温もりを繋ぎとめるように、しっかりと握りしめる。深呼吸、ひとつ。
「それに、今はお前の手の方が馴染んでいるんだ」




不二塚って『手』に関して書くことが多いね。
手塚の手は冷たいです。心根が優しいから。
不二の手は温かいです。魔王ですから(笑)。
手塚は魚好き、という設定は某サイトさんが使っていたので。ヤマメv
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送