5.サクラ(不二幸)
「綺麗だね」
 舞い降りる薄紅。雪のようだというヒトもいるけど、僕は雨のようだと思った。花の、雨。何かの歌で、確かそんなフレーズがあった。
「だとしたら、血の雨かもしれないな」
 僕の隣で、風に煽られる前髪を、鬱陶しそうに耳にかけながら彼は微笑った。その穏やかな顔に似合わない、彼の口から出てきた言葉。
「知ってる?桜の花びらは、本当は真っ白なんだ」
 待っている花びらを掌で受け止める。淡い色なのに、彼の肌が白いから、他よりも少しだけ濃く見えてしまう。
「花びらが淡いピンク色をしているのは、その根本に埋まっている人間の血を、吸ってるからなんだ」
 花びらを、自分の息を吹きかけて飛ばした。病気を持っているからマイナスな考え方をしてしまうのだとばかり思っていたけれど。元々、彼はそういうニンゲンなのだろう。
「ねぇ。それでも不二は、綺麗だと思う?」
 両手を広げ、花の雨をカラダいっぱいに浴びる。その姿が儚げで。僕は彼を捉まえると、抱き寄せてキスをした。
「綺麗だと思うよ。その事実を知ったら尚更、綺麗だと思えてきた。勿論、そんな残酷な話をする君の方が綺麗だけどね」
「変な人だ、不二周助は」
 僕の腕からすり抜けると、彼は無邪気に微笑った。
「君ほどじゃないよ。幸村精市くん」
 僕も、彼に微笑い返す。
 彼は一際大きな桜の下に行くと、その木にもたれながら座った。早く来い、というように、僕を手招く。
「ねぇ、不二」
「ん?」
「もし、その話が本当なら。俺の骸をこの桜の下に埋めてくれないか?」
 空を見上げ、眩しそうに手を翳す。僕も同じようにして、空を見上げた。雲ひとつない蒼に、薄紅色の血の雨が舞う。
「何でそんな事を言うんだい?」
 まだ空を見つめたままの彼の視線を遮るように、立つ。
「……俺、不二に綺麗だと言われるのが一番好きなんだ。俺よりも綺麗な不二が、俺を見て、綺麗だって言いながら。俺よりももっともっと綺麗な笑顔を見せる。それが、好きなんだ」
 僕の頬に触れようと、手を伸ばす。でも、彼は座ってるから。
 僕は彼の手を取ると、隣に座った。手を、頬に触れさせる。
「ねぇ。駄目?」
「……いいよ。埋めてあげる。そうしたら僕は、毎年ここでお花見をするよ。君の好きな焼き魚をお弁当に入れて」
 クスリと微笑い、キスをする。
「それは、情緒がないな」
 唇を離すと、彼はクスクスと笑った。
「それでも良いんだよ」
 もう一度唇を重ねると、僕も笑った。
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