6.卒業(不二リョ)
「………なんで?」
 門の前に佇んでた人は、俺を見止めると花を差し出し、微笑った。
「卒業、おめでとう」
 俺の手を取り、花を握らせる。俺が受け取ったのを確認すると、そのまま腕を引くようにして、門をくぐった。
 状況がよく飲み込めない。
 俺は立ち止まると、手を振り解いた。結局は振り解けなくて、手を引っ張っただけになったけど。
「……リョーマ?」
「何で、先輩がここにいるんすか?」
「周助だよ」
「……しゅう、すけ」
 先輩に倣って呟くと、先輩は満足そうに微笑った。手を、離す。
 もう三年近く隣にいて。名前で呼び合う方が多いのに。何故か咄嗟のときは、先輩、と呼んでしまう。名前を呼ぶのは恥ずかしくはないけど、訂正された後で呼ぶのは、ちょっと恥ずかしい。
「リョーマ、今日、卒業式だったでしょ?だから、おめでとうを言おうと思って」
 手に持っている卒業証書の入った筒を指差す。その後で、その手を持ち上げると俺の頭を優しく撫でた。
 嬉しくて、泣きそうになる。卒業式に堪えていた涙が溢れてきそうで、俺は俯いた。
「……でも。先輩の学校も卒業式なんじゃないっスか」
「抜け出してきた。そろそろリョーマが帰ってくる頃だと思って」
 あっさりと言い放ち、楽しそうに微笑った。その顔に、唖然とする。涙は、いつの間にか引いていた。
「…呆れた」
「リョーマのためならね。僕はなんだってするんだよ。それだけ愛してるってこと」
 優しい笑みと共に手が伸びてきて。オレの視界は真っ暗になった。唇を離した後で、強く、抱きしめられる。俺も、おずおずとその背に手を廻した。クスリと先輩が耳元で微笑う。
「卒業、おめでとう」
「……うん。」
 頷くと、なんだか泣けてきた。
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