10.生まれる前(不二塚)
 安らかに眠る彼を見つめていると、なんだか涙が溢れてきた。愛しくて。冷えた身体を強く抱きしめる。
「……ん。ふ、じ?」
「…ごめん。起こしちゃった?」
 泣き顔を見られたくなくて。彼の眼が正常に働く前に、彼の額にキスをした。そのまま彼の視界の外で、気づかれないように涙を拭う。
「泣いて、いたのか?」
 だけど、彼には誤魔化せなくて。真っ直ぐな眼で訊いてくる彼に、僕は苦笑した。
「敵わないな、手塚には」
 敵わない。何ひとつ。でも、それは嫌じゃない。寧ろ、嬉しかったりもするから、不思議だ。
「ねぇ。君を好きになって良かったって、思ってるんだ」
「……何だ、行き成り」
「それが、多分。泣いてた理由だよ」
 彼に出逢う前の僕は、こんな感情、知らなかった。幸せすぎて、涙が溢れてくることがあるなんて。
「いまいち…よく理解らないが」
「君が僕にくれた感情」
 手塚と出逢って、好きになって。生まれた感情。その所為で苦しい時もあるけど。それは幸せを感じてるからで。何も無かった昔よりは、全然良い。
「好きだって事だよ。手塚が。自分でも驚くほど、ね」
 また、溢れてくる涙。僕は彼を抱きしめると、深く、長いキスをした。
「……そうか」
 唇を離した彼は、呟くと頬を紅くした。
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