11.酔い(不二乾)
 試合を勝利で飾った不二は、コートに立ったままだった。身体の火照りを冷ますように、宙を仰ぎ、風を感じている。
「ねぇ、乾」
 眼を瞑ったままの不二の言葉に、俺は身体をビクつかせてしまった。そのことで、不二に見惚れていた自分に初めて気づく。
「何で君が、僕のデータを採れないか。教えてあげようか?」
 俺の心を見透かすように、不二は真っ直ぐに俺を見つめると、微笑った。
「いいのか?」
「別に。データを採られたからって僕が負けるわけじゃないし」
 余裕の笑み。不二は俺の前に立つと、ノートを奪い取った。白紙のままのその頁を見て、ホントに僕のデータだけは採れてないんだね、と微笑う。それが、少々頭に来たから。
「だったら教えてもらおうじゃないか」
 ノートを乱暴に取り戻す。
「俺が何故、不二のデータだけ採ることが出来ないのか」
「……いいよ。でも、それを知ったからといって、君が僕のデータを採れるようになるとは限らないけど、ね」
 ノートを取り上げられたままだった白い手を下ろすと、不二は意味深に微笑った。その眼に掴まりそうになって、俺は慌てて眼を逸らした。クスリと、微笑う声が聴こえる。
「そんなだから、駄目なんだよ。データを採りたいと思うなら、まずは酔いを醒まさなきゃ」
「……へ?」
「不二周助という名のドラッグに、君はどっぷり浸かっちゃってるんだ。勝ちたいならそこから抜け出さなきゃ」
 俺を見つめ、ふわりと微笑う。その笑顔に、俺は眩暈を憶えた。
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