13.レンズ(不二塚)
「……カメラ、向けるの止めてくれないか?」
 レンズを覗き込む僕に向かってラケットを翳すと、彼は呟いた。ズームをかけると、その頬ははっきりとした朱色をしていた。
「何で?別にシャッター押してないから、良いでしょ?」
 レンズを彼に向けたままで僕は言った。足早に近づく彼の手が伸びてきて、それを覆う。
「ケチ」
「ケチで結構」
 カメラから顔を離した僕に目線をそらせながら言うと、彼はそのままカメラを奪い取ってしまった。溜息を吐く。
 普段ならともかく、テニスをしてるときの写真なんかは、雑誌や校内新聞の取材で撮られることには慣れてるはずなのに。それに、プレー中の彼の集中力は半端じゃない。なのに、何でいつも僕のときだけ反応するんだろ。
「ね。返してよ。見てるだけなんだしさ」
 いつまでもカメラを持ったままの彼に、少し怒ったような口調で言った。カメラを返せと手を伸ばすと、今度は彼が溜息を吐いた。
「だったら、そのまま見ていればいい」
「………え?」
「お前には、そんなモノを通してオレを見て欲しくはない。第一、お前はありのままのオレが見たいのだろう?」
 彼はレンズを通したときよりも更に真っ赤な顔で言うと、言葉を無くしている僕の掌にカメラを乗せ、コートへと戻っていった。
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