14.天体(不二跡)
「……一体、こんなもんのどこがいいんだ?」
 リサイクルショップで手に入れた、プラネタリウム。電気を消し、星を灯した僕に、彼は詰まらなそうに言った。その様子に、溜息を吐く。
「僕の部屋は狭いし、光も完全に遮断できないからね。上手く映らなかったんだ」
「プラネタリウムが見てぇなら、言えばいつでも貸切にしてやるってのによ」
 ソファに座る僕の手を取り、指を絡めてくる。僕はそれには応えず、ただ、溜息を吐いた。星を見上げる。
「君はそうやって、すぐ物事を大きな方へともっていくんだね」
「当然だ。そっちの方が俺様の性に合ってるしな。お前ぇだって、庶民的な俺様なんて見たくねぇだろ?」
 急に、星が見えなくなった。膝に重さを感じる。目を凝らすと、彼が僕の膝の上に乗っているようだった。彼の手が、僕の頬に触れる。
「……あのさ。僕、君とそういうことをしに来たわけじゃないんだけど」
 一度だけキスを交わす。彼の手をとると、無理矢理に隣に座らせた。舌打ちをする彼に、苦笑する。
「別に。君に庶民的になって欲しいわけじゃないよ。庶民的な跡部なんて似合わないだろうし。まあ、偶に、なら可愛くていいと思うけど」
「かっ…」
 中途半端な声を出すと、彼は僕の手をこれでもかというくらい強く握った。怒ったような溜息を吐いて。
 可愛い、と僕が言うのを彼は嫌う。でもそれは、ただ単に恥ずかしがってるだけで。だから今、こうして怒ったように僕の手を握り締めるのも、それを誤魔化すための行動。きっと、今、彼の顔は真っ赤になってる。それが確認できないのが残念だけど。
 でも、まあ、二人でこうして居ることがそもそもの僕の目的だから。別にいいんだけど。
「ねぇ、跡部」
「………。」
 無言。怒ったフリをまだ続けるらしい。仕方がないから、僕は溜息を吐くと彼の手を優しく握り返した。体を寄せ、空いている手で彼の頬に触れる。
「跡部。」
 もう一度、名を呼ぶ。少し強引に自分の方を向かせると、少し長めのキスをした。怒ったフリの彼には、慰めるフリ。
「……っ不二」
 どうやら上手く言ったらしい。唇を離した彼は、強く握っていた手を緩めてくれた。やれやれ、だ。僕は彼に気付かれないように溜息を吐いた。天体を見上げる。
「ねぇ、跡部。こういう狭い所の方がさ、二人、って言うのを感じられると思わない?」
「……あん?」
「僕は今、世界に君と二人だけって気がしてるんだ。こうやって寄り添って、さ」
 手を解くと、僕は彼の肩に腕をまわした。そっと、抱き寄せる。
「そう考えると、こういうのもいいかなって。そんな気にはならない?」
「………偶には、な」
 暫くの沈黙の後で呟くと、彼はまわされた僕の手に、自分のそれを重ねた。
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送