15.上を向いて(不二塚)
「また、サボりか?」
 屋上で横になる僕の、視界を遮るようにして彼が覗き込んできた。
「ほら、起きろ。部活の時間だ」
「……うん」
 頷いて差し伸べられた彼の手を取る。彼に引っ張られる前に、僕はその手を思い切り引いた。上半身を起こし、よろける彼の唇に触れる。
「不二っ」
 僕から手を離し、唇を腕で拭う。真っ赤な顔で、僕を睨みつける。
「非道いなぁ。そんなに嫌がらなくてもいいのに」
 クスクスと微笑うと、僕はまた体を倒した。彼が諦めの溜息を吐く。
「唐突過ぎるからだ」
 赤い顔のまま呟くと、彼は僕の隣に座った。膝を叩くので、甘えることにする。
「じゃあ、唐突じゃなければいいってこと?」
 彼の膝に頭を乗せ、その冷たい手に指を絡めると、僕は微笑いかけた。更に顔を赤くして、彼が目をそらす。
「……時と場合によるが、な」
 思いもしなかった言葉に。僕のほうも少し顔が赤くなる。
「じゃあ、今は?」
「駄目だ」
 でも、そんなに甘くはないらしい。僕はわざとらしく溜息を吐いた。断られるのって、案外恥ずかしいんだよね。強引にやってあとで叱られる方がまだいいと思う時だってある。
「そんなことより」
 咳払いをすると、彼は僕を見つめた。僕も彼を見上げる。
「いつもいつも、お前はここで何をしているんだ?」
「んー……」
 呟きながら、彼の頬に触れる。また何かされると思ったのだろうか、彼が少し身構えたけど。僕はそれに気づかないフリで、彼の顔を押し退けた。開ける視界。遥か遠くにある白に手を伸ばす。
「空を、見てたんだ」
「何だ?」
「空だよ、ソ、ラ。僕たちって滅多に上を見ることないでしょ?だから」
「……そう言われてみれば、そうかもしれないな」
 伸ばされた僕の手を取り指を絡めると、彼も空を見上げた。暫くして、思い出したように彼は僕に視線を戻した。
「……ん?」
「ならば、お前の白鯨は――」
 言いたいことはすぐに分かった。だから、僕は少しだけ体を起こすと、彼の言葉を遮るようにして唇を重ねた。
 白鯨は、まだ彼にしか見せていない。というより、彼の為に考えたものだ。
「君に、少しでも僕と同じ景色を見ていて欲しいんだよ」
 彼の手を握り、微笑う。そうか、と呟くと彼も微笑った。
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