16.気配(不二塚)
「……手塚」
 視界には入っていないし、音も聴こえていないはずなのに。背後に立ったオレに、不二は確信を持った声で呼んだ。後ろ手を伸ばしてくる。オレはそれを取ると指を絡めた。隣に並ぶ。
「何?」
 コートを向いたままなのに、不二はオレが見つめているのに気づいたようだった。言った後で、ゆっくりとオレの方を向き、視線を合わせた。
「……よく、オレだと判ったな」
「判るよ。手塚のことは。何でも、ね」
 ふわりと微笑う。その笑顔に自分の顔が赤くなっていくのが判って、オレはコートに視線を映した。隣で、クスリと微笑い声。
「君だって。僕が何処に居ても必ず見つけてくれるじゃない。誰も知らないはずの屋上に君が駆けつけてきたときは驚いたよ」
「……お前の気配なら、すぐに察知できる。察知できるようにしたんだ」
 不二のように、オレにはその全てを判るとは言えないし、多分この先も全てを判るなんてことは出来ないだろう。そもそも、不二の心理を読める奴なんてこの世にいるのかどうか…。
 だからせめて、不二がどこにいるかだけでも判るようにはなりたいと思った。不二が手を伸ばしたときに、いつでもその手をとれるように。
「これでも、努力しているんだ」
「努力?何で?」
 呟くオレの言葉に、不二は顔を覗き込むようにして訊いてきた。目を合わせると途端に顔が赤くなってしまいそうで。オレは不二から顔を背けた。代わりに、手を強く握る。
「少しでも、傍にいられるように、だ」
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