17.泣いて泣いて泣いて(不二乾)
 真っ暗な部室で1人、青いベンチに座っている背中。いつもは大きなそれが、僕よりも小さく丸まっているのを見て。僕たちはまだ子供なんだなぁ、なんて。妙に実感した。
 扉を閉め、僕は彼に気付かれないように溜息を吐くと、その震える肩を後ろから抱きしめた。横から彼の表情を窺うけど。電気を点けていない所為もあってよく判らない。
「乾。レギュラー入りしたんだから、いいじゃない。それに、手塚から三ゲームも取ったのは君が初めてなんだよ?それって、凄いことだよ」
「……くそっ」
 俯いたまま。何度も読み返したらしいボロボロのデータノートを握り締める。白くなっているその手を、そっと包んだ。
 試合後はいつもと変わらない様子だったけど、やっぱり相当ショックだったのだろう。乾にとっては、もしかしたらレギュラーになることよりも、手塚に勝つことのほうが重要なのかも知れない。
 僕は、彼と並んでテニスが出来るだけで嬉しいのに。
「ねぇ、いぬ…」
 手に、落ちる温もり。
 もしかして、泣いてる?
「ねぇ。もっと喜ぼうよ。折角レギュラーに返り咲いたんだからさ」
 手を離し、彼の前に回りこむ。顔を覗き込まれるのを嫌がるかのように、彼は顔を背けた。
「……お前には理解らないさ。天才不二周助には。俺の気持ちが。俺がどれだけ努力したか」
 声が震えるのを押さえるためか、いつもより低い声。それが、余計に突き放し感を与えるから。僕は彼の顔を両手でしっかりと挟んだ。無理矢理に、自分の方へと向けさせる。
「理解らないよ」
 眼鏡を取り、頬に唇をあてた。遡るようにして、涙を吸い取る。額にキスをし、彼を抱きしめた。
「でも、君がどれほどの努力をしてきたかは知ってる。君の気持ちを少しでも理解りたいから。僕だって、ずっと君を見てきたんだ」
 だから、お願いだから、突き放さないで。
 言葉にする代わりに、強く、その身体を抱きしめる。
「泣いてもいいから。その気持ち、僕にも教えて」
 その後で、一緒に微笑おう。同じコートに立てることを。
「……不二」
 僕を抱きしめ、それだけを呟くと、彼は声を上げて泣き出した。
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