18.自慢のコレクション(不二リョ)
 いつもいつもレコードを取り出すとき、先輩はクローゼットを必要最小限しか開けない。絶対何か隠してると思って、先輩がジュースを用意しにいってる隙に開けてみたんだけど。
「……なんだ、これ」
 雪崩れるようにして出てきたモノに、俺は寒気を覚えた。
 暫く動けないでいると、先輩の階段を上る音が聴こえてきて。
「やっべ」
 俺は慌ててそれを元に戻そうとした。でも、その量は半端じゃなくて。
「なに、してるのかな?」
「………あ。」
 急いで掻き集めている所を、思いっきり先輩に見られてしまった。
 怒られる。そう思って目を伏せたけど。
「見つかっちゃったか」
 先輩は机にジュースの乗ったお盆を置くと、散らばった中から一枚を手にとってクスクスと微笑うだけだった。
 そうだ。考えてみたら、俺だけが怒られる理由はない。俺だって、先輩を怒ったっていいんだ。
「先輩っ、これはなんなんスか!」
「よく撮れてるでしょ。可愛いよねー。僕ご自慢のコレクションなんだ」
 手に持っている写真に唇を落とす。そのニヤケ顔に、俺の背に、また寒気が走った。そう言えば、どっかの先輩も似たようなことを海堂先輩に対してやってたっけ。
「気持ち悪い。乾先輩じゃないんすから、止めてくださいよ」
 先輩の手から写真を奪い、自分の顔をビリビリに千切る。先輩は一瞬切なそうな顔をしたけど、その後で気を取り直したようにクスリと微笑った。
「そんな事しても無駄だよ。ネガあるしね。それに、これは乾から教えてもらったんだ。君に対する愛情を増幅する方法。あ。こっちね、ファイリングしてあるの」
 俺を退かし、クローゼットを漁ると、3冊もの分厚いファイルを取り出した。その中には、俺ばかりがいて…。
「……こんなの、いつ撮ったんスか?」
「気づいてなかったの?僕、普通に撮ってたんだけど。あと、まあ、乾にとってもらったりもしたかな。ほら、ピンとズレてるのがあるでしょ。それが乾の。僕のは勿論、最高のアングルで撮ってあるよ」
 重々しい音を立てて、ページをめくる。その中には、本当にいつ撮ったのか、俺が水泳の授業をしている時の写真もあった。他に、夜の写真も…。
「先輩、それっ」
「リョーマがいなくて淋しいときはね、これ使ってるの。浮気するよりはいいでしょ?ね。これ、僕なりの愛情。乾風味ではあるけどね」
 愉しそうに、クスクス微笑いながらページをめくっていく。
「大丈夫。誰にも見せてないよ。だって、これは僕だけの宝物だからね」
「……ヘンタイ。」
 初めは寒気がしたし気持ち悪いとか思ってたけど。ここまで来ると、全てを通り抜けて、呆れる。もう、破いてしまう気すら起きない。
 深い、溜息。
 諦めた俺にか、先輩は愉しそうに微笑うとファイルを閉じた。手を伸ばし、俺の肩を掴む。
「でも。僕の一番の宝物は…」
「ん………っ」
「ね。」
「……ヘンタイ」
 唇を離して微笑う先輩に、俺は赤い顔を隠すようにして俯くと、呟いた。
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