19.イエー!!!(不二切)
「不二サン、いいじゃないっスか。どうせ暇なんでしょ?」
「……暇じゃないよ」
 歩く僕の周りを、尻尾を振りながらクルクルと廻る彼。いつか目を廻すんじゃないの?と思うけど。それは言わない。下手な事を言ったら、そのまま付き纏わられそうで。
「明日は部活休みなんスよね?」
「調べがいいんだね」
「だってオレ、不二サンのことなら何でも知りたいっスから」
 誉めたわけじゃないのに。彼は嬉しそうに微笑うと、僕の顔を覗き込むようにして後ろ向きに歩き始めた。転ぶよ、なんて事も、思っても言わない。
 僕は溜息を飲み込むと、彼の前にピンと立てた人差し指を出した。
「そう。じゃあ、イイコト教えてあげる」
「なんスか!?」
「僕、明日は出掛けるんだ。だから暇じゃないの。残念だったね」
 僕の言葉に、彼の顔が曇る。僕は、残念残念、と呟くと、少しだけ歩調を速め、彼を追い越した。
「っと。待ってくださいよ」
 数歩もしないうちに、彼に腕を掴まれる。
「どうせ写真を撮りに行くとかなんでしょ?オレ、邪魔しませんから。荷物持ちとかやりますから。だから、一緒に連れてってくださいよ」
 足を止めない僕に、彼はまたクルクルと周りを廻りはじめた。こうされると、歩く速度を遅くするしかない。
「オレ、マジで不二サンが好きなんスよ。お願いします。一度でいいからオレとデートしてください」
 僕の前に来たところで足を止めると、両手を合わせ拝むように頭を下げた。それも直角に近い角度で。こんな路上で。
「そんな事言われても、困るんだけど」
「一回でいいんス。そしたらもう付き纏ったりはしませんから!」
 このままだと、土下座までしそうな勢い。仕方ないな。僕は溜息を吐くと、彼の頭に手を乗せた。
「一回だけだよ。それで終わり。もう僕には付き纏わないでね」
 僕より低い位置にある彼の頭を、何度か撫でる。僕が手を離すと、彼はゆっくりと顔を上げた。にやけるのを堪えていると言ったようなそれに、僕は小さな溜息を吐いた。
「ほんとに、いいんスか?」
「……荷物、持ってくれるならね」
 苦笑しながら言う僕に、彼はニヤケ顔で歓喜の声を上げた。
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