20.ジャンプ!(不二リョ)
「君は可愛いね」
 酷く優しい声で言うと、先輩はいつも俺の頭を撫でる。それは嫌じゃないんだけど。なんか、背が低いって言われてるみたいで。それはちょっと嫌だ。
 そういう自分だって、他と比べたら背ぇ低いくせに。
 口にすると、それでも君よりは高いよ、なんて言葉が笑顔と共に返ってくること知ってるから。思ってても言わない。それに、俺の被害妄想かもしんないし。
 少しだけ、踵を浮かせてみる。でも、先輩にはやっぱり届かない。
 背伸びをしているのに気づいたのか、先輩はクスリと微笑うと、見上げる俺の髪を掻き揚げた。額に、唇を落とす。
「……可愛いなぁ」
 馬鹿みたいにくり返して、俺をぎゅっと抱きしめてくる。何となく悔しくて。俺も先輩の背に腕を廻すと、一度だけぎゅっと抱きしめた。体を離し、先輩を見上げる。
「ズルいっスよ」
 もう口癖になってる言葉を呟と、俺は深呼吸をした。
 爪先立ちでも足りないから。俺は手を伸ばすと、体を浮かせた。先輩の首に腕を廻し、一瞬だけのキスをする。
 地に足をつけ見上げると、先輩は驚いたような顔をして俺を見つめていた。感触を確かめるように、唇に手を当てながら。
 先輩の表情を変えることは滅多に出来ないから。少し赤いその顔を見て、俺は微笑った。先輩が得意とする笑みを真似して。
「………やっぱり、可愛いなぁ。リョーマは」
 暫くの沈黙の後、俺がした笑みをそっくり返すと、先輩は俺を強く抱きしめた。
 クスクスと微笑いながら、可愛い、と口癖のように呟く先輩の腕の中で、ズルいっスよ、と口癖のように俺も呟いた。
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