25.ごちそう(不二塚)
 長い口付け。ゆっくりと唇を滑らせると、彼の喉元に軽く噛み付いた。
「痛っ」
 怯えるように、躰を震わせる。クスリと微笑うと、僕は躰を離した。潤んだ眼で僕を見つめる彼を、見つめる。
 テニスコートの上では、僕はいつも狩られる側だ。どんなに策を練っても、結局は彼の餌食にされてしまう。彼に言わせれば、本気にならないで勝とうとする僕がいけないらしい。でも、本気にならないのではなく、なれないのだから、仕方ないと思う。
 勝利になど、執着はない。だから、本気にはなれない。
 でも。
「君になら、本気になれる」
 呟くと、彼は眉間に皺を寄せた。何でもない、と首を振り、キスをする。
 ここでは、僕が狩るもので、彼が狩られるべきもの。このときだけ、僕は本気になれる。
「執着してるんだ。手塚国光という獲物に」
 潤んだ眼、少し赤い頬。僕の前でだけ美しい姿を魅せるごちそうをものにするべく、僕は牙を剥いた。
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