26.尻尾(不二リョ)
 あまりにも似合いすぎていた彼の姿に、僕は一瞬、ソレが本物なんじゃないかと思ってしまった。
「何してんスか」
 ドアを開けたままなかなか入ろうとしない僕に、リョーマは言った。その声に合わせて、その後ろに在るモノも僕を急かすように動く。やっぱり、本物のように見える。
「ねぇ、リョーマ」
「なに」
「後ろ、カルいるよね?」
「いるよ」
 頷くと、リョーマは僕に背を向け、後ろにいる愛猫を抱き上げた。
「ほぁら」
 僕を見つめ鳴くと、彼は垂れ下がっていたフサフサの尻尾を元気よく左右に振った。
 そりゃ、そうだよね。
 自分の妄想に、笑いが込み上げてくる。
「なに笑ってんすか?」
「んー。ちょっとね」
 理由の理解らない僕の笑みにリョーマは頬を膨らすと、カルピンを下ろした。僕は部屋に入り扉を閉めると、寄ってきた彼を抱き上げた。
「カルはいい子だね。君のおかげで、いい夢見せてもらったよ」
 撫でる僕に、彼は鳴くかわりにゴロゴロという喉の音と尻尾で答えた。リョーマの横を通り過ぎベッドに座る。すると、僕の膝の上で当然のように彼は丸くなった。
「なんなんすか、さっきから」
 頬を膨らせたままで僕の前に立つと、リョーマはカルピンを取り上げてしまった。開いた僕の膝に、今度はリョーマが座る。そして、リョーマの膝には少しだけ不服そうな顔をしたカルピン。
「全く。甘えん坊なんだから」
 猫を撫でるように、リョーマの髪を撫でるとその体をきゅっと抱きしめた。眼を瞑ると、カルピンの喉の音が、リョーマそれのように聴こえた。
「君が、猫みたいに見えたんだよ」
「は?」
「さっき。ちょうど君の後ろからカルの尻尾が出ててさ。猫みたいだなぁ、って。似合ってた。可愛かったよ」
 クスクスと微笑いながら、リョーマに頬擦りをする。
「バカじゃないっスか」
 僕から顔を離すと、溜息混じりに言った。けれど。覗き込んだその顔は、耳まで真っ赤で。僕は微笑った。リョーマを、強く抱きしめる。
「まあ、尻尾なんてなくても、リョーマの気持ちはすぐ顔に現れるから良いんだけどね」
「……バカっ」
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