28.薔薇色(不二観)
「はい。プレゼント」
「………はい?」
 一体、ここのセキュリティはどうなってるのでしょうか?
 ドアを開けた瞬間飛び込んできた笑顔に、ボクはまた鞄を落としそうになった。手から離れる前に、しっかりと持ち直す。
「学習したね」
 ホッとしたボクの心を見透かすような、楽しげな笑い声。溜息を吐き、ドアに鍵をかける。
「貴方は相変わらずなんですね。一体、どうやってここに入ったんです?」
「ピッキング」
「……はい?」
「僕ってさ、犯罪者の素質あると思わない?」
 ボクの手を強引に引き隣に座らせると、彼は楽しそうに微笑った。机の上に置いてある針金らしきものを指差して。
「ボクは、犯罪者の恋人になる気はありませんよ」
「そうそう。僕もちゃんと学習したんだ。はい」
「人の話、聞いてます?」
「聞いてるよ。ようは捕まらなきゃ良いんだよ。ま、僕は君に関する事以外では犯罪はやらかさないから」
 ボクの溜息を遮るように、彼は両手いっぱいの紫色の薔薇を顔に押し付けてきた。受け取るまで止めそうにないので、ボクはそれを大人しく受け取った。
「何なんですか、これは」
「プレゼント。君に似合うと思ってさ。本当はこっそり置いて帰ろうと思ったんだけどね。他のヒトと勘違いされちゃ困るから」
 これからは、紫薔薇のヒトって呼んでも良いよ。冗談とも本気ともつかない調子で言うと、彼は微笑った。反対に、ボクは今日何度目かの溜息を吐いた。
「あのですね、不二クン。こんなことされても、ボクは――」
「そうそう。君に関する事以外ってことは、君のためなら僕は幾らでも罪を犯せるって事。覚えといてね」
 ボクの言葉を遮るように、ピンと立てた人差し指を唇に当てると彼は言った。さらりと、とんでもない事を。その言葉に唖然としているボクに、彼は微笑うとそのまま圧し掛かってきた。腕を、しっかりと押さえつけられる。ボクの手から零れ落ちた薔薇は、そのままボクの視界を塞いだ。薔薇色の視界の向こうで、彼がクスクスと妖しげに微笑う。
「それと。僕を犯罪に駆り立ててるのは、君自身だって事も、ちゃんと覚えておくように」
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