30.納得行かない(不二乾)
「はぁ」
 溜息が、聴こえた。顔を上げ、彼を覗き込む。
「どうしたんだい、乾」
「いまいち、納得が行かないんだ。不二も、常識で考えて、可笑しいと思うだろ」
 眼鏡をかけ、僕を見つめる。この姿勢を保つのが少し辛くなってきたので、僕は体を移動させた。真っ直ぐに、彼を見下ろす。
「何が」
 クスリと微笑い、彼の頬に触れる。
「だから、だな」
 彼は少し照れたように言うと、僕の頬を包んだ。そのまま、唇が重ねられる。
「どうして俺が見上げなければならないんだ」
「さぁ。僕はこうしたかったし、それが自然の成り行きだと思ってたんだけど。君は不満なの」
「不満ではない、が。俺のデータだと」
 手を伸ばし、ベッドサイドを漁る。データノートを掴んだその手を、僕は掴んだ。ノートを彼から取り上げ、その代わり僕の指を絡ませた。
「背が低いからとか女顔だからとか。そんなの関係ないよ。僕には君が可愛く見えるしね。それに、君は僕のデータを取れてないんでしょう」
 不敵な笑みを作り、彼にキスをする。触れるだけのつもりだったのに、彼が僕の頭を掴んで離さないから。僕は呼吸が出来くなる程のそれを彼に与えた。
「上下云々よりも、常識的に考えれば、男同士でこういうのも変だと思うよ」
「そうかも、しれないな」
 頬を少し赤くした彼が、深く息を吐きながら呟いた。体を重ねるようにして抱きしめ、耳元に唇を寄せる。
「でも、僕の事、好きなんでしょう」
「どうやらそうらしいな」
「何、その『どうやら』って」
 らしくもない、はっきりとしない彼の言い方に、僕は顔を上げた。
「不二周助には理屈は通用しない。それは理解っていたんだがな。どうやら不二に関わったことで、俺まで理屈が通用しなくなったらしい」
「納得行かないって、言いたいの」
「納得できなくても、好きなのは事実だから諦めるさ」
 僕を見つめ、溜息混じりに言う彼の顔は、さっきよりも赤くなっていた。
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