31.シングルライフ(不二菊)
「あー。うん。うん。わかってるよ。わかってるってば。うん。じゃね」
 うんざりした、というような声で言い電源まで切ると、英二は携帯電話をベッドに放り投げた。
「だーっ、もう。うちのオカンうるさすぎっ」
 遅れて、英二もベッドに飛び込む。僕はベッドに横になって読書をしていたから、上手い具合に英二の下敷きになってしまった。と言うか、僕の上に圧し掛かるようにして飛び込んだのかもしれない。
「重いよ」
「知ってるよ」
 十字に重なってた体を、向きをかえてピッタリと圧し掛かる。英二は僕に頬擦りをすると、読んでいた本を取り上げた。こういう態度をとるときは、話、というか愚痴を聞いて欲しいとき。
 僕は溜息を吐くと、無理な体制を承知で、英二の頭を撫でた。
「何の電話だったの?」
「いつものやつ。いい相手はいないのかー、いないならこっちで紹介してあげましょうかー、だってさ。俺には不二がいるっつーの」
 言うと、英二は強く僕を抱きしめた。抱きしめたといっても、首に腕を回してるのだから、端から見れば首を締めてるように見えるかもしれない。
「苦しいよ」
「なぁ。不二は言われない?弟クンはまだでも、姉の方はもう結婚してるじゃん」
「うーん。どうなんだろ。姉さんは勘がいいからね。僕たちの関係、気づいてるだろうし。母さんは放任主義だからなぁ。案外、カミングアウトしても平気かも」
「いいな。不二んとこは」
 結婚を考える始める年齢になっても、恋人の一人も家に連れてこないことが心配で、英二の母親は月に一回くらいは電話を入れてくるらしい。前はそんな事はなかったようだけど、兄弟たちが次々に結婚していく中、女の影すら見えない英二をかなり心配しているようだ。
「いっそのこと、僕たち結婚しちゃおうか」
「はぁ?」
「だからっ」
 僕は息を吸い込むと、無理矢理体を起こした。英二が横に転がる。なんなんだよ、と頬を膨らす英二に、僕は微笑った。向かい合うようにして座る。
「シングルライフも満喫した事だし。そろそろ、僕と一緒に暮らしませんか?」
 英二の左手を取り、僕は指輪を嵌める真似をした。口づけを交わし、ね、と微笑う。
「なにそれ。プロポーズのつもり?」
「そ。受け取ってくれますか?」
「……そんなに言うなら。仕方ないから、一緒に暮らしてやってもいいっかな」
 溜息混じりに言うと、英二は僕から顔をそらした。でも、その横顔は真っ赤で。僕は、仕方ないな、と微笑った。
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