38.デジャヴ(不二切) |
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「……なんかコレ、前に一度経験したような気がする」 しつこいほどの誘いを冷たくあしらっていると、急に彼が真面目な顔をして言った。 「は?」 「このカンジ。不二サンに冷たくされるカンジ。今まで冷たくされたコトなんてないのに。なんか、前にもそんなコトされた気がするんスよ」 オカシイなぁ、と米神を押さえたり腕を組んだりして真面目に悩んでいる彼の姿に、僕は溜息を吐いた。 「あのねぇ…」 「そっか。コレ、デジャビュってヤツっスよ!」 閃いたとばかりに、手をぽんと叩く。今度は僕が米神を押さえる番だった。 「切原くん」 「赤也でいいっスよ。不二サン」 「……赤也くん。それは違うと思うんだけど」 「違うって、ナニがっスか?」 「だから、デジャビュってやつ。デジャビュって言うのは、『それまでに一度も経験したことがないのに、かつて経験したことがあるように感ずること(「広辞苑」より)』だよ。君のそれは、以前に何度も体験している事だよ」 「以前に何度も…?」 本当に、解かっていないのだろうか。それとも、とぼけているだけなのだろうか。彼はまた米神を叩いたり腕を組んだりしながらうんうんと悩み出した。 今のうちなら、彼を置いてさっさと帰れるかもしれない。 「あっ。そうか!」 なんて考えていたのがいけないのか、彼は横をすり抜けようとする僕の手をしっかりと掴むと、満面の笑みを見せた。 「不二サンのいう『以前』って、『前世』のコトっスね!オレたち、前世からずっと赤い糸で結ばれてたって。そう言いたいんスよね?」 ……前世も何も、僕と君とは赤い糸でなんて結ばれていないんだけど。 深い溜息を吐く僕とは反対に、彼は問題が解決してスッキリしたといった顔で微笑った。思わず、頭を抱えたくなる。 「ねぇ、赤也」 「なんスか?」 「君ってさ、鶏のようだって言われない?もしくは、金魚」 「………言われたコトないっスね。あ。犬みたいだとはこないだ言われましたケド」 ……そんな事は訊いていない。 やはり、彼はただ莫迦なだけなのだ。犬のように尻尾を振りながら僕の周りをクルクル周りだした彼に、僕は哀れみすら覚えた。だからと言って、優しくしてあげる気は毛頭無いけれど。 「しょうがないな」 頭で憶えないなら、体に憶えさせるしかない。 「赤也」 「わっ」 僕は彼の胸座を掴むと、力任せに引き寄せた。何故か嬉しそうな顔をしている彼を、思い切り睨む。 「な、なんスか。そんなコワイ顔して」 「いいかい。しっかりとその身体に恐怖を植え付けて置くんだ」 「なっ…」 「二度と僕の前に現れるな。次来たら、これだけじゃすまないからな」 「コレだけって、何のことっ……ぁ」 跡が残るくらいの強さで彼の腹に膝を入れると、前のめりになったその体を突き飛ばした。尻餅を吐いた彼が、苦痛に顔を歪めながらも、何が起こったのか理解らないといった眼で僕を見上げた。 「これは、本当に一度も経験したことがないだろ?僕が君に暴力を揮うのは初めてだから、当たり前だけどね。もし次があったとしたら、君はデジャビュだと勘違うのかな」 出来るだけ冷酷な笑みを浮かべる。恐れたように俯く彼に、僕は安堵の溜息を吐くと、その横を通り過ぎた。 少し可哀相だけど。まあこれで、彼も懲りるだろう。 などと思ったのがいけなかったのだろうか。 「……なんかオレ、クセになりそうっス」 背後から聞こえた楽しげな声に、僕はこれから何度も彼にデジャビュを与えるような予感がした。 |
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