40.テレビジョン(不二乾)
 パソコンを閉じ、不二の隣に座る。する事も特にないから、暫く二人並んでテレビを観ていたのだが。
「つまんない」
 俺の隣でリモコンを操っていた不二は、突然溜息混じりに呟くと、持っていたそれをベッドへと放り投げた。勢いが良すぎたのか、リモコンがベッドの上で跳ね、壁にぶつかる。
「おいおい。壊れたらどうするんだ」
 俺は立ち上がると、壁の傷を確かめ、リモコンを手に取った。ベッドに座り、チャンネルを変えてみる。
 確かに、不二が面白いと思うような番組はやっていないな。
 だが、不二がつまらないというのは突然すぎる。さっきまで、大人しくテレビを観ていたのに。
「別にリモコンなくったって平気でしょ。これくらいの距離なら」
 テレビの主電源を切ると、不二は俺の隣に座った。重みで、少しだけ俺の目線が沈む。
「ほら、こんなもの、無意味だ」
 俺の手からリモコンを取り上げ、また放り投げる。今度は壁にぶつかる事は無かったが、そのかわり、バウンドしたリモコンはカツンと音を立てて床に落ちた。
「何を、怒っているんだ?」
 意味不明な不二の行動。それはいつもの事だが、少し攻撃的なそれに、俺は不二が何らかの理由で不機嫌になっているのだと察した。けれど、その理由が全く理解らない。
「それくらい理解りなよ。データマンでしょ」
 俺が問いを投げかけるたびに言われる台詞。そのまま仰向けになり溜息を吐く不二に、俺は気づかれないように溜息を吐いた。
「言ってるだろ。俺はお前のデータは取れていないんだ」
「そっか。その為にこうして僕と一緒に居るんだよね」
 これも、不二のお決まりの台詞。但しこれは、機嫌が相当に悪いときにしか出てこない。また、溜息が出る。
「不二。それは違う」
 呟くと、俺は体を捻り不二の顔を覗き込んだ。何が違うの、と俺を睨みつける蒼い眼が言う。
「データが取りたくて一緒に居るわけじゃない。もし俺が本気で不二のデータを取りたいのなら、ストーカーでも何でもしてるさ」
 まあその前に、幾度と無く試合を申し込むだろうけど。
「無理だよ、乾じゃ。いくら試合をしても僕のデータは取れない」
 少しは機嫌を持ち直してくれたのだろう。不二はクスリと微笑うと、手を伸ばしてきた。俺の頬を掴み、引き寄せる。
「ったら教えてくれませんか。不二周助が機嫌を損ねた理由を」
 唇を離し見詰め合う。不二は俺から眼を逸らすと、溜息を吐いた。
「パソコンが終わったら次はテレビ。やっぱり乾はデータ以外に興味ないじゃない。どうせ僕もその程度なんでしょ」
「不二」
「ねぇ、乾」
 もう一度不二の手が伸びてくる。頬に触れるのかと思ったが、白く細い腕はそれを通り過ぎ、俺の首に絡まった。イメージよりも力強く温かいその腕に、抱き寄せられる。
「数字の僕じゃなくて、生身の僕に興味持ってよ。テレビなんかで観るよりも楽しい現実を与えてあげるからさ」
 耳元で囁く。感じる吐息に耳まで真っ赤に染まってしまった俺は、顔を上げられずにただ頷いた。良い子だ、不二は呟くと、俺の頭をクシャクシャと撫でた。
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