42.○○さま(不二塚)
「不二様」
 潤んだ眼で僕を見つめると、彼はその場に跪いた。椅子に座っている僕の手を取り、唇を落とす。その手を引き、抱き寄せる。
 緋い光の中でも理解る、彼の頬の色。包むようにしてそれに触れると、唇を重る。深く。
「ふじっ、さま」
 長い口付けからやっとの事で解放された彼は、僕の肩にもたれると、深く息を吐いた。
「まだ、許してはくれないのか?」
「さて。どうしようかな」
 彼を向かい合うようにな形で自分の膝に座らせ、最低な笑みを投げかける。けれど、彼は鳥目だから、こんなくらい部屋では僕が今どんな顔をしているのかはっきりとは見えていないだろう。
 もううんざりだ。そんな、顔をしている。けれど、本当は不安なのだろう。僕を見つめる眼は揺れていて。そして、僕を掴んでいる手には、シャツ越しでも爪が食い込みそうなほどの力が入っている。
 まあ、これは、暗がりの中に居るというだけが原因ではないのだけれど。
「ねぇ。僕があの写真を撮るのに、どれだけ苦労したと思ってるの?それを君は台無しにしたんだよ?」
 本当は、使用中のランプを点けておかなかった僕にも非はあるのだけど。それを今、こんなオイシイ場面で言う必要は無い。
「だから、悪かったと――」
「謝って済む問題じゃないよ。写真は、二度と戻らないんだ。理解るね?これは罰だよ」
 耳元で囁く。指先で彼の身体をなぞると、彼が息を飲むのが理解った。
「返事は?」
「はい。不二様」
 これだから、優等生は。
 込み上げて来る笑いを、声になる前に何とか飲み込む。それでも、口元に現れてしまった笑みは消せない。だが、彼にはこれが見えていないから。僕は口を開けると、彼の首筋に噛み付いた。微かに、彼の身体が揺れる。
 怒られる事には慣れていないとはいえ、まさかここまで臆病になるとは思わなかった。
 写真を駄目にしてしまった罰として、今この間だけは、彼は僕の奴隷と化している。このままこの立場を利用すれば、今まで出来なかったような非道い事をしてあげる事も出来るんだけど。
 ……やっぱり、彼にはこんな姿、似合わないや。
「手塚。ちょっと降りて」
「はい。不二様」
 頷くと、彼は恐る恐ると言った感じで、僕の膝から降りた。その姿に、苦笑する。
「もういいよ。罰は終わり」
 立ち上がり、部屋の明かりをつける。行き成り過ぎた所為か、待ち侘びていた筈の光に、彼は眼を細めた。その彼の姿に、今度は僕が眼を細める。
「不二?」
 眩しいくらいの光に佇む彼は、まるで世界の支配者のようだと思った。
 違う。僕の世界の支配者、だ。
「国光サマ」
 跪いて彼の手を取ると、彼がしたように僕も唇を落とした。クスリと微笑い、彼を見上げる。
「ねぇ。もう罰は終わったけど。君はどうしたい?」
「な、んのことだ?」
 僕の言葉の意味に気づいたのだろう。彼は頬を赤くすると、僕から眼を逸らした。立ち上がり、彼をきつく抱きしめる。
「君の言う通りの事、してあげる。国光サマ」
 耳元で囁き、息を吹きかける。それを合図にしたかのように、彼の手が、僕の背にまわった。深呼吸をするのが聴こえる。
「だったら――」
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