44.友達(不二リョ)
「とりあえず、お友達から初めませんか?」
 俺の前に立ち、冷たいファンタを頬に押し付けると、先輩は微笑った。
「は?」
 突然のことに声を上げる俺に、クスリと微笑う。
「隣、いい?」
 そのファンタを俺の手に握らせると、自由になった右手で俺の隣を指差した。荷物をまとめ、先輩の座るスペースを作る。
「それ、あげるよ。僕からのプレゼント」
「……なんか、裏があったりはしないっスよね?」
「だから。僕と友達になって」
 先輩は俺の手からファンタをとると、プルトップを開けた。もう一度、俺の手に渡す。もう戻れないよ、と、その蒼い眼が言っていた。少しだけ、嵌められた感を抱いたけど。今更、先輩から逃れる事は出来なさそうだ。
「それ。どういう意味?」
 しょうがない。溜息を俺はファンタで飲み込んだ。隣で、先輩が、ふふふ、と不気味に微笑った。
「今の僕たちの関係は、部活の先輩後輩でしょ?」
「……そうっスね」
「でね。僕は本当は君と恋人になりたいの」
「ふーん。……んぐっ!?ゲホッ、コホッ」
 あまりにもさらりと言うもんだから。俺は大分ズレてからの見かけのファンタを喉に詰まらせた。咳き込んでいる俺に、先輩は頬杖をつきながら楽しそうに微笑った。
「可愛いなぁ」
 今まで見たこと無い種類の笑みを浮かべ、呟く。先輩その顔に、俺は今度は飲み込まずに溜息を吐き出した。
「何考えてんスか。俺は男っスよ。そんでアンタも男。恋人同士になれるわけないっしょ」
「越前くん。偏見は駄目だよ。男同士でも恋人にはなれるよ。その証拠に、僕は今、君に惚れてるんだから」
 ね、と微笑う。その笑顔に俺は何故か顔が紅くなってしまって。顔を見られないようにと、残っていたファンタを一気に飲み干した。
「でも。俺はアンタを部活の先輩ってしか見てないっスよ」
「今は、ね」
「………。」
「僕だって、初めから恋人になってとは言わないよ。無理矢理好きになってもらったって、早く終わるだけだし。君が僕を好きになるまで待つから。だから、ね。まずは友達から初めませんか?」
 俺の手から空になった缶を取ると、先輩は立ち上がり、それをゴミ箱に向かって投げた。かなりの距離なのにも関わらず、それは吸い込まれるようにしてゴミ箱へと入った。よし、と先輩が呟く。こんなことで喜ぶなんて。案外、子供っぽいところもあるんだな。先輩はもっと大人で、近づきがたい人だと思ってたのに。
 って。なんか俺、もしかして、先輩のペースに飲み込まれつつない?
「お、俺。そういう意味で言ったんじゃないっスけど」
「何?」
「だからっ。これからどれだけアンタと一緒に居ても、アンタを部活の先輩としてしか見れないって言ってるんスよ」
 先輩のペースに巻き込まれなうようにと、俺は少し声を荒げて言った。見上げると、先輩は俺に圧されてか少しだけ驚いたような顔をしていた。でも、それはほんの一瞬で、俺と眼が合うと、先輩は優しく微笑った。
「いいよ、それでも」
「え?」
「いいよ。君が僕を好きにならなくても。でも。だから、その代わり、越前くんと…リョーマと、友達になりたい。友達だったら、部活が無くても一緒に居ることが出来るからね」
 だから、友達。呟くと、先輩は俺の前に立ち、手を差し出した。見つめ返す俺に、ね、と微笑う。その笑顔に、また顔が紅くなりそうになるから。
「……し、しょうがないっすね」
 俯きながら呟くと、先輩の手を取り立ち上がった。見えてはいないけど、先輩が嬉しそうに微笑ったのが分かって。俺も何故か嬉しくなった。


「じゃあ、僕と君は今日から友達だ。ねっ、リョーマって呼んで良い?僕のこと、周助って呼んでいいからさ」
「ヤダ」
「えーっ、何で?」
「だって、それって恋人同士みたいじゃん」
「いいじゃない、予行練習だよ」
「だから。俺はアンタのこと好きなならないって言ってるっしょ。友達は俺のこと越前って呼ぶから、アンタもそう呼んでください」
「じゃあ、リョーマは僕のこと不二って呼ぶの?」
「………しょうがないっスね。いいっスよ、リョーマで」
「うん。ありがと、リョーマ」
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