46.キズナ(不二リョ)
「テニスがないと、駄目なのかなぁ」
 試合を終え、二人並んでベンチに座ると、突然先輩が呟いた。
「何がっスか?」
 渡されたファンタを受け取り、一口飲む。横目で見た先輩は、背中を丸めるような形で膝に肘を乗せて頬杖をついていた。俺と目を合わせ、わざとらしい溜息を吐く。
「リョーマと僕とを繋いでるもの。リョーマは僕よりもテニスの方が好きなんでしょ?僕はテニスよりもリョーマの方が好きだけど。でも、テニスをしているリョーマが一番好きだから。やっぱり、テニスがないと駄目なのかもしれない」
 俺から目を逸らすと、先輩はもう一度、はぁ、と深い溜息を吐いてみせた。テニスによって繋がっている関係か、と淋しそうに呟く。その姿に、今度は俺が深い溜息を吐いた。
「アンタ、そーやってすぐ理解ったようなコトを言うけど。知ってます?それって案外当たってないんスよ」
「……どこらへんが?」
 少し遅れて、先輩はやる気の無い声を出した。頬杖を止め、顔ごと俺を見つめる。
 俺は、これから言う言葉の恥ずかしさを残ったファンタと一緒に呑み込んだ。深呼吸をし、先輩をしっかりと見つめ返す。
「だから。俺がアンタよりもテニスが好きだって。こんな機会でもなきゃ言えないだろうし、信じてくれないと思うから今いいますけど」
 先輩から頼まれたわけでもなくそういう状況のときでもないのに、自分から改めて言うのは初めてで。高鳴り始めた鼓動を静めるように、俺はもう一度深呼吸をした。
「俺も、テニスより周助の方が好き。確かに、テニスをしてる周助が一番好きだけど。それは多分、『好き』って気持ちを強くするためのもののような気がする。だから、テニスは俺たちを繋ぐものじゃなくて、それをより強固にするための、栄養剤?みたいなもんなんじゃないかって思うんスよ」
 顔を紅くしないように気をつけてたのに。言っているうちにやっぱり恥ずかしくなってきて。途中、俺は何を言ってるのか理解らなくなってしまっていた。それでも何とか言葉を言い終えると、いつの間にか下がってしまっていた視線を元に戻した。恐る恐ると言った感じで、先輩を見つめる。
「…せ……し、周助?」
 そこに映った先輩の顔に、俺は自分の目を疑った。
「……それ、本気で言ってるの?」
「当たり前じゃないっスか。俺は先輩と違って冗談でこんな恥ずかしいことはいいませんから」
「そう」
 溜息を吐き出すように呟くと、先輩は俺から顔を背けた。横顔でも、先輩の顔が真っ赤になっているのが理解る。
「…ねぇ。顔、真っ赤だけど。もしかして、照れてる?」
 こんなことは滅多に無いから。嬉しくて、俺は立ち上がって回り込むと、先輩の顔を覗き込んだ。
「うん。そうみたい」
 でも、そこはやっぱり先輩で。俺の言葉を否定せず、素直に頷いた。真っ赤な顔のままで、不敵に微笑う。マズイと思ったときにはすでに遅くて。俺は先輩に顎を掴まれると、キスをされてしまった。俺を強く抱きしめ、耳元で微笑う。
「ねぇ。リョーマの耳も真っ赤だよ。もしかして、照れた?」
「…うるさいっスよ」
 呟くと、俺は先輩以上に赤くなった顔を見られないようにと、強く先輩を抱きしめた。


「じゃあ、テニス、続きしよっか」
「へ?」
「だって、テニスは栄養剤なんでしょ?もっと沢山テニスをして、もっと僕のこと好きになって。僕も、今よりもっとリョーマを好きになるからさ」
「……バカっ」
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