48.拒絶(不二リョ)
「イヤだっ」
 なんとか身を捩ると、俺は先輩を突き飛ばした。壁にぶつけてやるつもりだったのに、先輩は二、三歩下がっただけで。口元に滲んだ血を舐めると、ニヤリと微笑った。
「何で嫌がるの?君が望んだ事なのに」
 俺の両手を掴むと、また強引に唇を重ねてきた。血の味が、口内に広がる。その鉄臭さに、思わず顔をしかめた。それでも、先輩は容赦なく口内に侵入して来る。身を捩っても離れてくれそうにないから。俺はもう一度、今度はその舌を噛み切ろうとした。
「おっと」
 しかし、それに気づいた先輩は、俺がそうする前に唇を離した。けど、相変わらず俺に自由は無かった。目の前の蒼い眼が、妖しい光を放ちながら細まる。
「僕と、ずっとこうしたかったんでしょ?手塚もいないしね。僕も淋しいな、とは思ってたんだ」
 クスリと微笑う。体を反転させると、先輩は俺を壁に押し付けてきた。
 確かに。先輩に俺は好きだと言った。こういうこともしたかったのかもしれない。でも、それは違う。俺は、代わりになりたかったわけじゃない。俺自身として、先輩に必要とされたいんだ。だからっ。
「イヤだ。放せよっ」
「駄目だよ」
 有りっ丈の力でもがいてみたけど、先輩は平然とした様子で言った。また、唇を重ねられる。
 首筋を這ってくる感触に、怖いわけでもないのに、身体が震えた。きつくそこを吸い上げた後で、息を吹きかけるようにクスリと先輩は微笑った。
「嫌だって言ってる割には、過剰なくらい反応してるね。駄目だよ、越前くん。嘘を吐いちゃ」
「……っ」
 身体を密着させてくる。そこから伝わってくる先輩の熱に、俺は今度こそ恐怖を覚えた。心は。
 けれど、それとは反対に、身体は先輩を求めているのだと知った。その証拠に、俺の身体は、熱を持ち始めている。
 心の拒絶と身体の渇望。その狭間で動けなくなってしまった俺は、ただ先輩の熱を受け止めるしかないのだと悟った。
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