49.さみしい(不二幸)
「じゃあ。また明日」
「……ああ」
 音も無く閉じる扉を、俺はただ眺めていた。不二に気づかれることの無かった、中途半端に上がったままの手を下ろす。
 溜息、一つ。
 今日も、何も言えなかった。
 両手を広げ、じっと見つめてみる。けれど、いくら探しても、温もりはどこにもなかった。
 不二がいつもそうしてくれるように、両手を組み合わせてみる。体温が伝わってこないのは、両方とも自分の手だからだ。不二と手を繋いでいる時は、いつでもその優しい温もりを感じることが出来た。
「……帰らないでくれ」
 俯くと、飲み込んだはずの言葉が漏れてきた。行く宛てのないその言葉は、部屋に反響して、自分の耳へと戻ってくる。途端、淋しさが込み上げて来た。俺は半ば身体を放り出すようにしてベッドに横になった。猫のように、丸くなる。
『幸村は強いんだね。僕だったらこんな生活耐えられないな』
 今日、不二の言った言葉が頭を過ぎった。
 俺はあの時、何も応えることが出来ずに、ただ微笑って返したが。
「俺だって、そんなに強くは無いんだ」
 呟いて、自分を強く抱きしめた。零れそうになる涙を、必死で堪える。誰も見ていないから泣いたって構わないような気もするが、今泣いてしまったら次から不二には会えないような気がして。
 そう。俺がこんな何もない入院生活に耐えられるのは、不二が絶対に来てくれるって判っているからなんだ。
『また明日』
 去り際の、不二の言葉。そんなの、判ってる。
 不二がこうして、部活の時間を割いてまで、毎日来てくれる事は嬉しい。だが、違う。俺が本当に望んでるのは、また、などという言葉ではない。何故なら、それは別れを意味する言葉だからだ。
 俺が欲しいのは、孤独を感じない言葉。
「……ずっと、俺の傍に居てくれないか」
 呟くと、堪えていたはずの涙が一筋、俺の頬を伝い落ちた。
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