52.手紙(不二リョ)
「だーっ、もう。やめやめ」
 目の前の紙をクシャクシャに丸めて後ろに放り投げると、俺もそのまま椅子に寄り掛かった。途端、視界が揺らぐ。
「わっ……いでっ」
 寄り掛かる勢いが強すぎたのか、俺は椅子に座ごと後ろに倒れてしまった。逆さまの視界に映るのは、クシャクシャに丸められた紙の山。
「ほぁら」
「……カルピン?」
 ドアの隙間から体を滑らせてやってきたカルピンは、その山の上に飛び乗ると、丸くなった。気持ちよさそうな顔で、眼を瞑る。
「ったく。そこはお前のベッドじゃないつーの」
 どうしてこう…猫はやたらと紙の上で寝たがるんだろう。
 いつだったか、俺がテスト勉強してた時も、ノートの上で眠っちゃって。暫くしてどかしたら、湿気だかなんだかわかんないけど、ノートが波打ってた事があった。
 まあ、今回はゴミと化した紙の上だから、別に良いんだけど。
「……背中、痛い」
 まだ視界が逆さまだったことを思い出し、俺は体を起こした。机に置いてある残り少ないレポート用紙を見て、溜息を吐く。
 大体、先輩も先輩だ。俺はただ、部活にいけないって事を部長に伝えておいて貰う為に部長宛ての手紙を書いたのに。言ってみれば、メモ書きだ。なのに、それくらいで怒るなんて。俺が手紙とか書くの苦手だって、知ってるくせに…。
 今、カルピンが眠っているのは、不二先輩に書けといわれたラブレターの失敗作で。行き成り便箋に書くのもどうだろうと思って、下書き用にレポート用紙に書いてるんだけど。
 書き始めて早3時間。だけど、何を書いたらいいのか、全然わからない。第一、メールだって用件以外は送った事ないし。
「はぁ」
 溜息を吐き、椅子を起こす。今度は倒さないようにゆっくりと寄り掛かった。
 『好きです』って、その一言じゃ、駄目?
 …やっぱ、駄目だよな。だからって、何書けばいいんだよ。いっそのこと英語にしてみるか。
 なんて。書いてみたけど。やっぱりどうも、しっくり来ない。
 そう言えば、前に乾先輩のデータノート(海堂先輩用)を覗き見したとき、海堂先輩の好きなところを寒気がするくらいにびっしり書いてたっけ。そのことを先輩に話したら、僕もリョーマのいいところを書き出したらノート一冊は使うな、なんて言葉を返してた。寒気がするどころか、凄いね乾は、なんて事も言ってた。
 …じゃあ、それを書けばいいわけ?
 別に、思いつかないわけじゃないけど。というか、寧ろ、思いつきすぎるけど。でも、言葉にするのは、しかも相手にそれを伝えるのは恥ずかしい。先輩なら何の苦もなくやってのけるんだろうけど。俺にはそんなこと出来ないし。
 どうしよう…。
 でも、とりあえず何か書かないと、先輩は俺と口きいてくれないし。
「え、英語なら…少しマシかも」
 先輩が訳せないような口語なんかを使って書けば、ちょっとどうにかなるかもしれない。
 ……………。
「おーっし」
 深呼吸をし、腕をまくりあげると、俺は今まで悩んでたのが嘘みたいに、スラスラと言葉を並べていった。


「はい、これ」
「……レポート用紙の束?」
「違います。手紙っスよ。て・が・み」
「手紙?」
「アンタが書けっていったんでしょ」
「ああ。そうだった。でも、手紙って、普通便箋に書かない?」
「………。」
「リョーマ?」
「…俺も、便箋に書こうとしたんスけど」
「けど?」
「り、量が多くなっちゃって。だから、その…」
「そんなに沢山の愛の言葉を並べてくれたの?」
「うっさいな。兎に角、俺はちゃんと手紙を書きましたからね。もう、教室行きますから」
「……ねぇ、リョーマ。知ってる?」
「はい?」
「僕の愛読本」
「………あ。」
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