55.木(不二塚)
「隣、良い?」
 木陰に座り昼食を取っていると、不二が弁当箱を片手に隣を指差した。頷き、少しだけ端による。
「ありがと」
 言ってオレの隣に弁当箱を置くと、不二は座らずに、その木に触れた。木肌を何度か撫で、耳を当てる。
「……何を、しているんだ?」
「しっ。静かに」
 ピンと立てた人差し指を口に当てるながら、不二は言った。オレが黙ったのを見て笑みを返すと、静かに眼を瞑った。
 暫くして、不二がゆっくりと眼を開ける。
「手塚。雨、降るよ」
「…え?」
「雨。だから、早くお昼食べちゃおう」
 突然の言葉に眉間の皺を深くしたオレに、不二は微笑うと隣に座った。弁当を広げ、黙々と食べ始める。訳が解からないながらも、オレも不二に遅れないようにと弁当を食べ出した。
 ふと見上げた空には、雲ひとつ見当たらなかった。


「……まさか、本当に降るとはな」
 ベンチに座り、窓の外を眺めると、オレは溜息混じりに呟いた。着替えを終えた不二が、隣に座る。
「何?信じてなかったの?」
「当たり前だ。あの時は、雲ひとつ無かったんだぞ」
 指を絡めてくる不二の手をしっかりと握ると、オレは口を尖らせて言った。クスリと不二が微笑う。
「だって、あの木が言ったんだもん。雨が降るぞーって」
「……はぁ!?」
「理解らないなら、今度こうして耳を当てて聴いてごらんよ。木の声をさ」
 微笑いながら言うと、不二はオレの胸に耳を当ててきた。オレの背に腕を回し、強く抱きしめる。
「……手塚は今、ドキドキしてるね。どうしてかな?」
 顔を上げ、触れるだけのキスをする。オレは手を伸ばすと、不二を強く抱き返した。その耳が、オレの胸に当たるように。
「て、づか?」
「知りたければ、オレの声も聴き取ってみろ」
「……うん」
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