56.刹那(不二塚) |
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「君はどうして。僕に永遠を求めるの」 「別に、オレは」 永遠など、求めていない。言おうとした言葉は、不二の指先によって摩り替えられた。普段の自分からは想像も出来ないような甘い声が漏れる。だが、オレはそれが嫌いではない。自分では出せない声を不二は導き出してくれる。だから、この声は不二だけが知っていると言うことになる。その事実は、その事実だけで、オレはいとも簡単に充たされる。 だが、オレが欲しいのは、もっと単純なもの。 「お前と、一緒に居られるだけで、いい」 体を離そうとする不二を抱きしめると、その耳元で囁いた。暫くそのまま抱きしめていると、不二の溜息が聴こえてきた。無理矢理に、体を引き離される。 「無理だよ、そんなの。知ってるでしょう。僕が刹那的な愛し方しか出来ないって」 クスリと微笑い、触れるだけのキスをすると、不二は立ち上がった。オレの熱をそのままに、脱ぎ捨てられていた服を着始める。 「でも、刹那的な感情でなら。僕は君を愛する事が出来るよ。今夜みたいにね」 振り返り、オレの頬に触れる。不二の手はいつも温かいのに、何故か今は冷たく感じる。多分、不二を引き止めることが出来ないと、心の何処かで諦めているからだろう。 「だが、お前はもう帰るのだろう」 「取り敢えずやることはやったし。今日の愛情はこれでオシマイ」 額にかかっている髪を掻き揚げそこに唇を落とすと、不二は微笑った。その後で、何の躊躇いも無くオレから手を離す。 「じゃあ。また、明日」 オレに背を向け、いつものようにそれだけを呟くと、不二は音も立てずに扉を閉めて部屋から出て行ってしまった。 残されたのは、静寂。 不二が隣に居る。それだけで、オレは充たされる。だが、それだけは、最も容易くて、最も求めているものだけは、不二は与えてくれない。 数時間だけの関係が始まってから、もうすぐ一年が過ぎようとしているのに。相変わらず、オレの隣には空白しか残さない。 「たった一日を求める事も、お前にとっては永遠を求める事になるのか」 呟いて、シーツに残された僅かな温もりを求めるように寝返りを繰り返していると、自分の中から沸き起こった温もりが頬を伝った。 |
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