58.記念日(不二リョ) |
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「……アンタのことが好きっス」 「アンタじゃないよ。周助」 「…………俺は、周助が、好き」 僕をおずおずと見上げながら言う。その顔は耳まで真っ赤で。僕は思わず彼を抱きしめたくなった。 けど、ここは我慢。僕の方もちゃんと言葉を返さなくてはいけない。 「うん。僕も。リョーマのこと好きだよ」 手を伸ばし、真っ赤になっている頬に触れる。少し彼の体が揺れたけど、それには気づかないフリでキスをした。そのまま手を背中に回し、彼を強く抱きしめる。 「…痛いよ、周助」 まだ、呼び慣れていない名前。でも、彼は必死でそれを日常に変えようとしてくれている。それが嬉しくて、ますます僕は強く彼を抱きしめた。 「好きだよ。リョーマ」 耳元で、息を吹きかけるようにして言うと、体を離した。見つめる彼の顔は、抱きしめる前よりも赤くなっている。 「なんだかんだ言って、今日初めてお互いの気持ちを確認したね」 「…アンタが無理矢」 「周助。だよ」 「……周助、が無理矢理言わせたんじゃん」 そうかもね。彼の言葉に苦笑すると、僕はベッドに座った。膝を叩き、彼をそこに座らせる。 僕たちが所謂コイビトという関係になって、もう直ぐ二ヶ月が経つ。僕たち自身、それは自覚している。だけど、お互いの気持ちをちゃんと確かめたことはなかった。好きだという気持ちをはっきりと言わないまま、好きでいてくれているという気持ちをはっきりと感じて、体を重ねていた。 だから、僕が強要したという事実があったとしても、彼からの『好き』が聴けたことは、この上なく嬉しい。 「何、ニヤついてんの。気味悪い」 無理な体勢で振り返り見つめてくる彼に、僕は首を横に振った。膝から落ちないようにと彼をしっかりと抱きしめ、その首筋に顔を埋める。 「……嬉しいんだよ。今日は僕にとって、特別な日になりそうだ」 多分、彼はこの先も、強要しない限りは僕を好きだとは言ってくれそうにないし。 「何で?」 「君からの『好き』を貰った、最初の日だからね」 項から顔を離し、クスリと微笑った。それとは反対に、彼が溜息を吐く。それは、呆れた、という意味なのだと思ったけど。 彼は僕の腕から抜け出すと、向き合うようにして座り直した。僕の首に、腕を回す。 「……リョーマ?」 「だったら、周助にとっての特別な日じゃなくて、『俺たち』にとっての特別な日、でしょ」 言って、どこで覚えたか知れない不敵な笑みを彼は見せた。 「そうだね」 呟くと、僕は頷く変わりに彼にキスをした。 |
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