61.依存症(周裕)
「ねぇ、裕太。何か食べたいものない?今夜は誰も帰ってこないから、裕太の好きなモノ、僕が作ってあげるよ」
 ベッドに横になってるオレの上に乗っかると、ぎゅっと抱きしめ、耳元で囁いた。溜息を吐き、読みかけの本を閉じる。
 ルドルフ(うち)と当たってから、兄貴は週末の殆んどオレを家に呼び戻すようになった。裕太には僕がいないと駄目なんだ、なんて言って。でも、実際の所は逆なんじゃないかって思う。確かに、オレも兄貴に依存してる所はあったけど。でも、オレは自分で兄貴から離れることが出来た。ルドルフに編入すると言う道をとることで。
「ねぇ、裕太。何食べたい?」
「何でもいいよ。それよか、重いから退いてくんねぇ?」
「ダーメ。裕太が何を食べたいか言うまで、退かない」
 オレの手から本を取り上げると、兄貴はクスクスと微笑った。仕方ねぇな。また、溜息を吐く。
「じゃあ、兄貴の食べたいものが食べたい」
「うん?」
「オレが帰ってきてるときは、いつも兄貴はオレに合わせてくれるだろ?だから、オレは兄貴が食べたいものが食べたい。それじゃ、駄目か?」
「……優しいんだね、裕太は」
 一度だけオレを強く抱きしめると、兄貴はベッドから降りた。
「別に。そんなんじゃねぇよ」
 オレも体を起こす。兄貴はクスリと微笑うと、オレの隣に座った。触れ合ったオレの手をとり、それを弄ぶ。
「なぁ、兄貴」
「うん?」
「オレ、自立したいんだ。精神的に。だからさ、もうオレを家に呼ぶの止めてくんねぇか?自分で帰りたいと思ったら帰るからさ」
 言って、兄貴から手を離した。つもりだった。
「駄目だよ」
 だが、オレが逃げるよりも先に、兄貴は強く俺の手を掴んだ。指を絡めるようにして手を繋いでくる。
「裕太には僕がついてないと駄目なんだ」
「……それは兄貴だろ?」
「そうだよ」
 オレの言葉に、兄貴はなんの躊躇いもなく答えた。真っ直ぐに、オレの眼を見詰める。
「だけど」
 暫くして呟くように言うと、兄貴は掴んでいたオレの手を強く引いた。あっという間に、兄貴の腕の中に抱き寄せられる。
「兄っ…」
「僕から離れる為にルドルフに行ったって事は。結局、僕から離れられてないって事なんだよ」
 ま、そう簡単に離れられても困るし、離さないけどね。
 抱きしめたオレの耳元で囁くと、兄貴は愉しそうに微笑った。そして、兄貴の体温に安らぎを感じてしまったオレは、そうなることを望んでいる自分がいたことに、初めて気がついた。
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