62.誰にも言えない(不二ヤマ)
 クスクスと声を上げ、ボクの背中に圧し掛かっている可愛いヒトは、わざとらしく微笑っている。自分に回されている手をしっかりと握ると、ボクはそのまま立ち上がった。宙ぶらりんだった足が、ボクの腰に絡まる。
「そろそろ、帰りましょう。日誌も書き終わったし、もうみんな帰っちゃいましたし」
「だったら、折角だからもう少し一緒にいようよ」
 ボクの耳に息がかかるようにいうと、彼は腕と足に力を入れて、身動きを取れないようにギュと抱きしめてきた。
「こなきジジイですか、貴方は」
「じゃあ、大和くんは一反もめんだね。いっつも僕を背中に乗せてるから」
 クスクスと楽しそうに微笑うと、彼は更に強くボクを抱きしめた。重い?と訊いてくる。
「不二どん。おいどん、もう疲れたでごあすよ。降りてくんしゃい」
 何とかその場にしゃがみ込むと、ボクは声色を変えて言った。あはは、と彼が声を上げて笑う。
 彼の手足から力が抜け、ボクはやっと自由を取り戻した。ベンチに腰掛けている彼の隣に、腰を下ろす。
「ねぇ。そんな喋りかただっけ?」
 ボクの手を握り指を絡めると、彼はじっとボクを見つめた。
「あんな感じじゃありませんでした?」
 彼の視線に苦笑して返す。
 ボクの言葉にうんうんと唸りながら、彼は絡めた指を解くと、かわりにクビに腕を回してきた。ボクを抱き寄せ、触れるだけのキスを交わす。
「言い方はあってるかもしれないけど、声は似てないかな」
 唇を離した彼は、楽しそうに微笑ってみせた。その笑顔に、ボクの頬は一瞬にして赤くなってしまった。慌てて、彼から眼をそらす。
 どうしたの?
 クスクスと微笑いながら言うと、彼はそらしたボクの顔をわざわざ覗き込んできた。顔、赤いよ。呟いて、またキスをしてくる。
「誰にも言わないでくださいよ」
「何を?物真似が下手なこと?」
「違いますよ」
 それもですけど。呟いて、苦笑する。
 眼鏡を外し、しっかりと彼を見つめると、ボクはその肩に手を置いた。
「ボクの弱点が不二クンだって言うコト、ですよ」
 自分で言いながら、どんどん赤くなっていく顔。彼に見られないようにとボクはその肩を引き寄せると、彼にキスをした。
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