63.フラッシュバック(不二桃)
「こうやって見ると、僕たちってあの頃はそんなに身長差なかったんだね」
「そうっすね」
 卒業するときに部活から貰ったアルバムと、その後に僕が取り集めた写真を見比べる。中学時代の二人は、今と視線が逆だったらしい。もう、かなり昔の事だから忘れてたけど。
「でも、吃驚しましたよ。高校入ったら、行き成り不二先輩、身長伸びてるんすもん」
「僕は成長期が遅かったからね。でも僕も、高校に入ってからあんなに身長が伸びるとは思わなかったよ」
 でも、それよりも僕が驚いたのは、彼が同じ高校に入学してきた事だ。そして、入学式当日。受付をしていた僕に、彼は以前から好きだったと告白した。僕も、桃城の事は前から可愛いと思ってたし、OKしたんだけど。
「ね、桃。もし僕が、あの頃のままの身長だったらさ、君は僕を抱きしめてたのかな?」
「……な、に言ってるんすか」
 抱きしめ耳元で囁くと、彼は一瞬にして耳まで真っ赤に染めた。右手に隠し持っていたカメラで、その顔を記録する。
「不二先輩っ」
「あはは。だって、桃が余りにも可愛いからさ」
 手を解き、微笑って見せる。彼は赤い顔のまま、溜息をついた。
「でもさ、桃、写真に撮られるの好きでしょ?ナルだし」
「そりゃぁ、嫌いじゃないっすけど。でも、どうせだったらもっと格好良く撮って欲しいっすよ」
「格好良くか。それは難しいな。だって桃、可愛いし」
 これなんか特に。写真の束の中から、彼が涎を垂らしながら眠っているものを選び、目の前に差し出した。その頬は、英二の悪戯により、赤く塗られている。
「これね、僕の一押し」
「これがっすか!?」
「だって、可愛いじゃない。まぁ、勿論。今の桃のほうが可愛いけどね。僕より背、低くなったし」
「不二先輩が伸びただけっすよ。オレだって少しは身長伸びたんすから」
 もう顔の赤さは引いたらしい。彼は僕を引き剥がすと、僕の手から写真を奪い取った。自分の鞄の中にそれをしまう。
「これは没収っすよ、もう。あんなの、いつまでも取っておかないでくださいよ」
「まぁいいよ。それはあげる。ネガはまだあるしね。それに、今日撮った写真もあるから」
 カメラを構え写真を撮るフリをする僕に、彼は、そりゃないっすよ、と脱力したように呟いた。その姿が余りにも可愛かったから。撮らないつもりだったのに、僕は思わずシャッターを切ってしまった。
「不二先輩っ」
「いいじゃない。想い出だよ。格好つけたのばっかりじゃなくて、日常も撮っておかないとね」
「『日常も』って。不二先輩はそればっかりじゃないっすか」
「だって、そっちの方が思い出を呼び起こしやすいでしょ?」
 クスリと微笑い、キスをする。唇を離した僕は、再び赤面した彼にレンズを向けた。
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送