65.大好き!(不二切) |
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「だってしょーがないじゃないっスか。惚れちゃったんだから」 僕の前を、左右に行ったり来たりしながら歩く。 「でも、僕は好きじゃないから」 「別にそれでも構いませんよ」 言葉を返すごとに、それがどんな言葉でも、ただの相槌だったとしても嬉しそうな顔をする彼に、僕は溜息を吐いた。 「ったく。今まで僕の事なんとも思わなかった癖に。何?試合の所為?」 「試合もそーっスけど、オレをギュって抱きしめてくれたじゃないっスか。そんとき、愛を感じちゃったんスよね」 「はぁ?」 抱きしめた?僕が?彼を? ……ああ。もしかして。 「試合直後に、君が行き成り立ったまま眠っちゃった時のこと?」 「そう!それ。やっぱり覚えててくれたんスね。感激っス」 僕の言葉に、彼は気味が悪いくらいに顔を綻ばせると、僕の手をギュッと握ってきた。払っても払っても握ってくるから、もう面倒臭くなっちゃって。僕は彼に手を握られたまま放って置くことにした。それをいいことに、彼は指を絡め、ついでに僕の肩に寄り掛かってきた。 「で。オレ、自分でも吃驚するくらい不二サンのことが好きになっちゃったんですよね」 「……意識無かったんじゃないの?」 「ほんの一瞬はありましたよ。抱きしめられた瞬間」 抱き締めたんじゃなくて、抱き止めたんだけど。 はぁ、とわざとらしく溜息を吐く。肩も動かしてみたんだけど、彼にはそれは効かないらしい。まだ、僕の肩に寄り添っている。 「あんな一瞬で、こんなにも簡単に人を好きになれるなんて思ってもいませんでしたよ」 「…だったら、勘違いなんじゃないの?」 「それでも、今オレが不二サンのことを好きだって言うのには変わりないから、別にいいっス」 「そう。でも、この先幾ら君が僕に付き纏っても、僕は君を好きにはならないから」 足を止め、彼を体から引き剥がす。そろそろお喋りも終わりにしないと。 「でも、オレは不二サンの事、大好きっスから。オレが一緒にいられればそれでいいっス」 絡められていた指先を離すと、案の定、彼の手は僕を追ってきた。それを避けるように、自分のポケットへ手をしまう。彼は淋しそうな顔をしてポケットを見つめていたけど、顔を上げて僕を見たときには笑顔に戻っていた。姿勢を正し、敬礼のポーズを取る。 「じゃあ、今日はこれで帰るっス。オレ、本当に不二サンの事好きなんで、また明日来ますから。それじゃ」 ワンブレスで一気に言うと、彼は僕からの返事も待たずに踵を返し、走り出してしまった。 「……ったく」 あっという間に小さくなっていく背中に、溜息を吐く。 「『大好き』か。根負けしないように気を付けないと」 人懐っこい犬のような彼を、ほんの少しだけ可愛いと思ってしまっていた事に気づいた僕は、深い溜息を吐くと、まいったな、と呟いた。 |
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