66.雨の日(不二リョ)
 雨を見ると、ワケもなく興奮する。ワケもなくというのとは少し違うか。原因は、一応あるわけだし。
「何か、思い出すね」
 部室の窓から外を眺めてた俺の直ぐ後ろに立つと、先輩は呟いた。振り返ったところを、抱き締められる。
「君を好きになったのも、こんな突然の雨の日だったから」
 体を離し俺の頬に触れると、先輩は優しくキスをした。ベンチに座り、俺に膝に乗るようにと促す。
「体、冷えちゃったね」
 突然の雨に打たれて、部活は中止。何故か皆は傘を持ってきててそのまま帰ったけど。俺は傘を持っていなかったから、雨が止むまで先輩と部室で雨宿りをする羽目になった。
「だったら、着替えればいいのに」
 温めるように俺を抱き締めてくる腕を掴むと、引き剥がそうとした。駄目だよ、と言う囁きと共に、強く抱きしめられる。何で、と訊く俺に、先輩はただ微笑った。
 濡れたシャツを通して徐々に伝わってくる体温。あの時、先輩と初めて試合した時、互いを意識した時とは別の興奮が、体を支配し始める。
「そう言えば、君を好きになったのも雨の日だけど。無理矢理犯っちゃったのも雨の日だったね」
 俺の心を読んだかのように、先輩はクスクスと微笑った。だってしょうがないよね、濡れたシャツが透けててさ、食べてくださいって言ってるようなもんだよね。言いながら、先輩は俺の顎を掴むと、キスをしてきた。それはあの時みたいな乱暴なものじゃなくて。酷く優しいものだったけど、あのときよりももっと濃密なものだった。
「……っはぁ」
 息が上がる。
 唇を離した俺は、先輩の胸にもたれるようにして寄り掛かった。抱き締めていた腕を解き、俺の濡れたままの髪を撫でる。
「ほら、今も」
 クスクスと微笑いながら、俺の体を指差す。濡れたシャツはべったり体に張り付いて、薄っすらと肌色が透けて見える。
「何か、また食べたくなってきたなぁ」
 呟いて、またキスをする。今度は触れるだけで直ぐ離れようとしたから。俺は先輩の頭を掴むと、自分から深く口づけた。
「……リョーマ?」
 唇を離した先輩が、意外そうな顔で俺を見つめる。俺は、どこかで見たような不敵な笑みを真似して見せた。肌色が透けて見える先輩の胸に、顔を埋める。遠くで、雷鳴が聴こえた。どうやら、暫く雨は止まないらしい。
「いいっスよ、食べても。但し、俺は雨宿りをしてるだけっすから。雨が止むまでに食べ尽くしてくださいよ」
「……了解。」
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