68.ひこうき雲(不二リョ)
 真っ青な空を二分する、真っ白な飛行機雲。僕はこの雲が好きだけど。彼は好きじゃないという。
「だって、先輩が言ったんでしょ。こうやっていつまでも飛行機雲が残ってる時は、天気が悪くなるんだって」
 僕の手を握り、肩に頬を寄せながら彼は言った。空いている手は、余韻たっぷりの飛行機雲を指している。
「別にいいじゃない。天気なんて。それよりも、今の景色を楽しもうよ」
 空を向いている手を下ろさせると、風が彼の髪を掠めた。露になる額。そこに、唇を落とす。
「嫌っすよ。明日は久しぶりの部活なのに」
 僕の行動を気にしないフリで、彼は返した。けど、その頬は真っ赤で。僕は微笑った。
「いいじゃない。今日は部活が無いから、こうして一緒に過ごせるんだよ?」
「あーあ。テスト最終日から部活があればいいのに」
 呟きながら、歩調を速める。やれやれ、と少し前を行く彼に気付かれないように溜息を吐くと、ピンと張った手を緩めるべく、隣に並んだ。
「非道いな。リョーマは僕と一緒に居たくないの?」
「……だって、先輩は俺と全然試合してくんないんスもん」
「だって、リョーマがいつまでも僕の事を『先輩』って呼ぶからさ」
 口を尖らせていう彼に、僕も同じように口を尖らせて返した。意地悪っスね、と彼が呟く。
「でも。なんでそんなに僕と試合がしたいの?」
 部活中は勝手に相手を決めることが出来ないから、なかなか試合をすることが出来ない。それでも、打ち合い程度ならよくやってるのに。彼はそれでは満足できないらしい。部活が無く、こうして二人で過ごそうとすると、必ずといっていいほど試合をしたがる。まあ、彼の要求が受理される場合は、殆んど無いのだけど。
「だって俺、先輩の…」
「周助だよ」
「……周助、の、テニスしてる姿、好きだし」
「――え?」
 思っても見なかった、彼の口から出た『好き』に、僕は頬を赤く染めてしまった。でもそれ以上に、僕を見つめる彼の顔の方が赤くて。
「リョーマ…」
 嬉しくて、顔が緩む。空いているを伸ばすと、僕は赤くなっている頬にそっと触れた。顔を、近づける。
「それに」
 唇が触れ合う寸前で、彼は呟くとニッと微笑った。
「試合で体力奪っちゃえば、周助、俺ナシでもぐっすり眠れるっしょ?」
「…………それって、非道いね」
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