69.流れる(不二海)
 短い吐息と共に、流れ落ちる汗。僕はそれを、綺麗だな、なんて暢気に考えながら、ぼんやりと眺めていた。
「…なに、見てんすか」
 ノルマを達成したのだろう。彼は素振りを止めると、僕の前に立った。
「お疲れサマ」
 差し出したタオルを受け取り、隣に座る。その横顔は、動いていた所為だけではない、朱色。きっと、僕の視線を感じ取っていたのだろう。そのことが嬉しくて、僕は思わず、ふふ、と声を出してしまった。
「なに、人の顔見て微笑ってるんすか。気持ち悪い」
 タオルを肩に掛け、僕を睨みつける。普通の人なら、怖気づいてしまうのだろうけど。生憎、僕にはそれは通じない。寧ろ、そんな彼を可愛いとさえ思ってしまう。
「集中してても、僕の視線だけはちゃんと感じ取ってくれてるんだなって思ってさ」
 その朱くなった頬を指差し、微笑う。彼は一瞬息を詰まらせると、急いで肩に掛けていたタオルで自分の頬を隠した。僕から、顔を背ける。
「これはっ、さっきまで練習してたからっすよ」
「そう?じゃあ、そろそろ赤みが引いててもいいはずだよね。ちょっと、見せて」
「…っ」
 顔を隠している彼の手を退かし、空いている手で顎を掴むと、無理矢理に自分の方へと向けさせた。唇を重ねる。
「ほら。まだ朱いよ」
「それはあんたがっ…」
「僕が?」
「……あんたが。キ、ス。するから…」
 更に顔を朱くして、俯く。でも、僕は下から覗き込むようにして彼を見ているから。彼は結局、僕の眼から逃れられないでいた。どうして良いか分からずに固まってしまっている彼の体を、強く抱きしめる。
「ちょっ、不二先輩」
「大丈夫。誰も見てないって」
「そうじゃなくて。おれ、汗臭いっすから。離れてください」
 どうにかして僕を引き剥がそうとするけど。
「駄目」
 僕はクスクスと微笑うと、彼の首筋を流れる落ちる汗を舐め取った。彼が小さな声を上げ、大人しくなる。
「うん。なかなか良いね、海堂の汗の味って」
 クスリと微笑うと、そのまま首筋を遡るようにして汗を舐め取って言った。行き着いた先、彼の耳元に、息を吹きかけるようにしてクスクスと微笑う。
「ったく。変態っすか、あんたは」
 諦めの溜息。呆れたように呟くと、彼は僕の背に手を回した。
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