70.ナミダ(不二リョ)
 彼の、涙を見るのが好きだ。
 それは生理的なものであったり、感情的なものであったりさまざまだけど。どんなものでも、好きだ。まあ、退屈でしょうがないという欠伸をしたときに出る涙だけは例外として。
 その中でも、僕が一番好きなのは…。
「っあ……ヤ、ダって…」
 僕の腕の中で、快楽に身をそらす。口から出る言葉とは反対に、彼の身体は激しく僕を求めている。
 どうして、いつも否定するようなことばかり言うのだろうと、不思議になる。する前は、あんなに誘ってるのに。
 まあ、身体は今でも誘ってるんだけど。
「嫌じゃないでしょう?こんなになってるのに」
「ぁ。」
 クスクスとイヤラシイ笑みを浮かべ、彼のそこに触れる。それに反応して身をそらすから。中に入っている僕が、角度を変えて彼を刺激した。さっきよりも大きな声を上げて、彼が喘ぐ。
「しゅ、すけっ。もっ…」
 限界が近づいたのだろう。彼は縋るような眼で僕を見詰めた。その眼には、薄っすらと涙が浮かんでいる。
「もう、なに?」
 その涙の美しさに、思わず彼を解放してあげたくなる。けど、頬を伝うにはまだ足りないから。僕は最低な笑みを浮かべると、根元を締め付けたままで身体を揺らした。
「…ねが、から。イかせて…」
 最初と最後だけ、素直な言葉を吐くのはズルイと思う。その所為で、途中僕に飛ばされる罵声は、総てチャラになってしまうのだから。なんて。仕組みが分かっていても、結局許してしまうのは、ただ単に僕が莫迦なだけなんだけど。
 まだ戒めたままでいると、彼は僕の背に爪を立ててきた。必死な顔で僕を見つめるその眼から、涙が零れ落ちる。
「可愛いよ、リョーマ」
 その涙を舐め取り、自分の中に取り込む。口内に広がる、涙の味。この行為は、僕は彼を手に入れたような錯覚に陥れてくれる。何故だかは分からないけど、彼の中に総てを吐き出す行為よりも強く、支配感を僕に与えてくれるから。
「君は、僕のモノだ」
 囁いて、彼を解放する。
 一際大きな声を上げたあと、僕の腕の中でぐったりとしてしまった彼の目には、また涙が溜まっていて。
「大好きだよ、リョーマ」
 もう届いていないとは知りながらも呟くと、僕は指で彼の涙を掬った。
 そのとき、何故かいつも僕の眼には感情的な涙が浮かんでいることを、彼は知らない。
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