71.勝つ!(不二塚・不二←切)
「絶対に勝ってみせますからね!」
 ベンチに座っている僕の顔すれすれにラケットを向ける彼に、僕は溜息を吐いた。隣では、ギギ、とガットを整える音がする。
「どうでもいいけど。こんなことしたって、僕は切原くんのモノにはならないよ?」
 視界の邪魔になっているラケットを払うと、僕は溜息混じりに言った。払われたラケットを肩に乗せ、切原くんが微笑う。
「いいんスよ、それでも。でも、手塚サンに勝てば、少しはオレに興味を持ってくれるっスよね」
「まぁ、勝てればの話だけどね」
 自信たっぷりの切原クンに、また溜息を吐く。横目で見た手塚は、少し怒っているように見えた。
「心配するな。オレは負けない」
 僕の視線に気づいてか、手塚は僕を見つめると、静かに言った。静かだったけど、その声には強い意志が込められていた。
 僕を見つめるその眼を見たくて、僕も手塚の方を向く。正面からしっかりと見つめると、手塚は僕にしか判らない笑みを浮かべた。
「なーにいい雰囲気になっちゃってるんスか。そんな余裕かましてると、痛い目みますよ?」
 僕たちの視線を切るように、切原くんのラケットが割り込んできた。手塚が切原くんに視線を移すから。僕もつられるようにして、切原くんを見た。僕と眼があった切原くんは、気持ち悪いほどの笑みを僕に見せた。
「お前の方こそ、痛い目を見ないで済めばいいがな」
 今度は、手塚のラケットと声が、視界を遮った。
「はっ。オレが病み上がりのアンタに負けるわけないっしょ」
「不二にすら勝てない奴が、オレに勝てると思うな」
 見つめ合う二人の間に、火花が見える。
 まったく、しょうがないな。溜息を吐くと、僕は二人がそうしたように、ラケットを差し出して視線を遮った。
「はいはい。勝負はテニスでつけようね。二人とも、コート入って」
 反論を許さぬよう、僕は二人の背中をコートへと押し出した。殺気立った二人の背中が、それぞれのコートへと向かう。
「あ。そうだ」
 途中で思いつき、手塚の袖を引っ張った。爪先立ちになり、彼の頬にキスをする。
「頑張ってね、手塚」
 クスリと微笑って見せると、手塚は顔を真っ赤にして、ああ、と呟いた。その表情に満足した僕は、手塚の背中をもう一度押すと、ベンチへと戻った。
「ぜってー、勝つ!」
 構えを取る手塚に向かって投げられる、殺気に満ちた声。視線をやると、切原くんの眼は、真っ赤に染まっていた。
「あ。特別ルールね。故意に相手を傷つけたと僕が判断した時点で、負けだから」
「「え?」」
「……『え?』って。もしかして、手塚…」
「……じ、冗談だ」
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