74.パジャマ(不二リョ)
 なんとか体を捩ってファスナーを締める。フードを被ると、俺は背を向けている先輩に向かって咳払いをした。
「……いいっスよ」
「うわっ。かっわいい」
 俺の言葉に振り返ると、先輩は少々興奮気味に言った。俺の手を引き、自分の隣、ベッドに座らせる。
「この部屋に姿見が無いのが悔やまれるね。ホント、似合ってるよ」
 どらえもーん。誰かの声色を真似すると、先輩はそのまま俺に抱きついてきた。その勢いが強すぎるから。そのまま後ろに倒れてしまった。見上げる俺を、満足げな笑みで先輩が見下ろす。
「やっぱり、買って来てよかったよ。可愛い可愛い」
 俺の頭、と言うよりも、そいつの頭を撫でると、先輩は俺にキスをした。また、ギュッと抱き締めてくる。
 それにしても。特別な日でもないのにプレゼントと言われて。何かと思ったら、こんなつなぎのパジャマ。こんなのもらって、俺が喜ぶとでも思ったのかな?
「いいの。これは僕の為に買ってきたんだから」
 俺の心を見透かしたように、先輩が悪戯っぽく笑う。
「でも、リョーマ、僕に可愛いって言われるの嫌いじゃないでしょう?」
 可愛いよ。急に真顔になって呟くから。俺は一気に赤面してしまった。先輩から、顔をそらす。耳に、クスクスと笑い声。
「ね。普段着てとは言わないからさ。僕が泊まりに来た時は、それ着てよ」
 俺の顎を掴み、無理矢理に自分の方を向けさせる。フードを外すと、先輩は額に唇を落とした。
 ふと、何となくその気になっている自分に気づく。これじゃ、先輩の掌で踊らされてるみたいだ。
 ……何か、ムカつく。
「いいっスよ。アンタが居るときは、俺、これ着て寝ますよ」
 腕を伸ばし、先輩の首に絡めると、俺は自分から誘うようにキスをした。先輩の口が、満足そうにつりあがる。
 でも。そんな思うようにはしてやんない。
「その代わり。俺がこうして寝ている限り、アンタは俺に触れることは出来ないけどね」
「………あ」
 そう。ファスナーは後ろについている。俺を抱きかかえてそれを下ろすか、押し倒す前に下ろすかでもしない限り、首から上以外に俺に触れる事は出来ない。
 しまった、とでも言いたそうな顔に、俺は誰かさんの真似をして微笑って見せた。途端、俺がした笑みをそっくり返される。
「僕は触れなくてもいいけど。君の方こそ、それでいいの?」
「…………あ。」
SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送