75.シーツ(不二幸)
「……いつまでそうしているつもり?」
 俺をベッドに押し付けたまま、ただ、黙って見下ろしている。手を伸ばしてその頬を掴むと、キスをするために少しだけ体を浮かせた。
「駄目だよ」
 優しい声。それとは反対の力強い手が、俺の肩を押さえつけた。頬から離れた手が、力無くベッドに落ちる。
 触れること無く離れてしまった唇が、目の前の温もりを求めている。その事実が、何故か俺を嬉しくさせた。
「不二」
 出来る限りの甘い声を出し、誘ってみる。だが、彼は眼を細めて微笑うだけで、それ以外何も返してはくれない。
「君の肌は白いけど…」
 言いながら、右手を俺の肩から胸へ向かって滑らせる。望んでいた刺激とは違う、触れるか触れないかのもどかしさに、何故か俺は頬を赤くした。
 クスリと、彼が微笑う。
「こうして、白いシーツに寝かせて月光を浴びさせると」
 胸から温もりが離れる。彼は俺の頬に手を添えると、キスをした。待ち望んでいた温もりに、眼を閉じる。
「青白く光るんだよね」
 眼を開けた俺に、彼は微笑った。俺の腕を高く上げ、そこに舌を這わせる。
「綺麗だよ。でも、これは誰にも言わないんだ。僕と君…後は、君を綺麗に照らしてくれる月だけの秘密」
 ああ、このシーツも、仲間に入れてあげないとね。クスリと微笑うと、不二は俺の腕に痕を付けた。手を離し、うっとりとした眼で、滑り落ちた腕を眺める。
 綺麗だよ。また、呟く。そう言っている不二の眼は、月光の所為もあって、いつもよりも深さを増していた。妖しい光を放つそれを、俺は何よりも綺麗だと思う。そして、月光を浴びて青白く光る彼の肌も。
「……不二は狡い」
 俺は、月光とこのシーツの力を借りなければ綺麗になれないのに。
「綺麗すぎて。狡いよ」
 呟くような俺の言葉に、不二は、ふふ、と蒼い目を細めて微笑った。
「僕が綺麗だとするなら」
 きっとそれは、幸村のお蔭だね。
 どこか満足げな響きを持った声で囁くと、不二は俺の望んでいるキスをした。
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