78.屋上(不二リョ)
「ったく。先生に見つかったら、アンタが何とかしてくださいよ」
「大丈夫。ここなら見回りが来ても気づかれないから」
 俺の肩に顎を乗せ、わざと大きく口を開けて話す。くすぐったいけど、それに対しての反応をするとなんだか負けなような気がするから。俺は我慢した。クスクスと、先輩が耳元で微笑う。
「まあ、もし見つかってもさ。先輩に拉致られましたって言えばなんとかなるよ」
 誰が見てもそういう風に見えるようにしておくからさ。低い声で呟くと、先輩は俺を強く抱きしめてきた。嫌な予感がして、その手を振り解こうともがく。無駄な抵抗だって事は分かってるんだけど。
「なんてね。冗談」
 ふふ、と微笑うと、先輩は腕を解いた。どうにか抜け出そうとしていた俺は、そのまま前方へと飛び出してしまう。
「危ないよ」
 俺が地面に手をつくよりも先に、後ろから伸びてきた先輩の腕に、再び抱き締められた。俺の体を引っ張り、先輩の胸と俺の背がピッタリとくっつくようにして抱き締める。
「んー。いい風」
 髪を撫でていくように通り過ぎる風に、先輩は揺り篭のように俺の体を揺らしながら言った。楽しそうなその声に、溜息を吐く。
「風は気持ちいいっスけど。……暑いんスけど」
「まぁ、もう直ぐ夏だからね」
「そうじゃなくて…」
 涼しい場所に連れてってあげる。1時間目終了後の休み時間、偶然に廊下であった俺に、先輩は言った。そして、俺の返事を聞くまでも無く、腕を掴むと屋上への階段を上がっていった。
「ったく。メチャメチャ直射日光じゃないっスか」
 それに、背中も暑いし。授業サボっちゃったし。
「こんな天気のいい日に授業なんて。勿体無いよ。それに、この時間の陽射しは気持ちいいんだよ」
 楽しそうな声で言うと、先輩は俺を抱き締めたまま、後ろに倒れた。視界いっぱいに広がる青に、目が眩む。
「ね。なんか、涼しくなって来たでしょ?」
 ……確かに。
「でも、やっぱり暑いっスよ。特に背中が」
 溜息混じりに呟く。後ろで、先輩がクスクスと微笑った。その所為で、俺の頭が少しだけ上下する。
「じゃあ、離れる?」
 言って、手を離そうとするから。俺は、ヤダ、と呟くと、離れないようにしっかりとその手に指を絡めた。先輩がまた微笑う。
「暑いんじゃないの?」
「………だって、そのまま寝転がったら、制服汚れるし」
「……素直じゃないね、全く」
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