79.ソックス(不二塚)
 突然の雨。
 雨宿りをしようと腕を引っ張ったのだが。不二はいつものようにそれを振り解くと、雨の中へと駆け出した。
「んー。気持ちいい」
 両手を広げ、全身に雨を浴びる。それでも鞄はオレの足元に置いて行くのだから、そこらへんはしっかりしているというか、なんというか。
「手塚もおいでよ。雨って、意識して濡れると気持ち良いんだよ」
 額や頬に張り付いた髪を掻き揚げると、微笑いながらオレに手を差し伸べた。いつものように、オレもそれを拒む。つまんないの。そう言いたげな顔で溜息を吐く不二に、オレも溜息を吐いた。
「風邪、引くぞ」
 ザァザァと音量を上げ始める雨に、オレは少し声を張り上げて言った。
「大丈夫だよ、今までも風邪ひいたこと無いし」
 不二も、少し張った声で返してくる。
 確かに、不二はいつもこうして雨に打たれているが、風邪を引いたことがない。クーラーの効き過ぎなどでは直ぐに風邪を引くのだが。自然には強いということなのだろうか?
 だが、だからと言って、いつまでも冷たい雨に打たせているわけにもいかない。
「ったく」
 次第に強さを増していく雨の中に、オレは飛び込むと、不二の手をしっかりと掴んで屋根の下へと入れた。
「心配性なんだから」
 とりあえず雨に打たれたことで満足したのだろうか。不二は今度はオレの手を振り払おうとしなかった。その代わり、苦笑しながら、指を絡めてくる。
 お前に対しては、心配性になってしまうんだ。そう言おうとして、オレは止めた。そんなことを言ったら、余計に不二を奇行に走らせてしまう気がして。
 だが、どうしたら……。
「……不二。酸性雨って知っているか?」
「?うん。さっき僕があたってたアレでしょ」
 オレの突然の言葉に、不二は頭にはてなを浮かべながら答えた。繋いでいない右手で、ナイロン色の雨を指差す。
「でも、それが?」
「………酸性雨にあたりすぎると、お前、禿げるぞ」
「……………」
「……………」
「……わかったよ。止めるから。雨に当たるの」


ソックス【SOx】(sulfur oxides)硫黄酸化物のこと。(広辞苑より)
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