82.メイク(不二塚)
「った。やめっ……ん」
 抗議しようと開いた口を塞がれる。オレの声を全て吸い取るように舌を絡めながら、不二はオレを突いた。一応、オレの言葉は伝わっていたようで、それは先ほどまでとは違う優しいものになっていた。その礼に、不二の侵入を容易に許し、オレも不二の口内へ侵入した。
 滲んだ視界の隅で、不二の口元が僅かに吊り上る。
「好きだよ、手塚」
 唇を離すと、不二は少しだけ苦しそうに呟いた。手塚は?と眼で問う。
「オレも、好きだ」
 答えると、不二の顔から苦しさが消え、誰もが見惚れるほどの笑顔になった。そのことに安堵したのも束の間、不二はオレの腰骨を掴むと、また激しく躰を揺すった。短い声を上げ、不二がオレの中へと全てを吐き出す。それを感じたオレも、少し遅れて吐き出した。
 荒れた息もそのままに、不二が唇を重ねてくる。ぼんやりとした意識の中、オレはそれをただ受けていた。
 このときほど、不二の男らしさを強く感じるときは無い。だからと言って、女のようだと思っているわけでもないのだが。いつも不二はフワフワとしていて、捉えどころが無い。
 だが、このときは、躰を重ねている時は違う。不二の精神は全てオレに向いているから。手を伸ばせば、簡単に捉えることが出来る。今だって…。
「ふっ、じ…」
 唇が離れる僅かな間を縫うようにしてその名を呼ぶ。手を伸ばし、不二の頭を掴むと、自分から深く口づけた。まだ体内に存在しているものが熱を持ち始めるのが理解る。
「……まだ、いいだろう?」
 その蒼い眼をじっと見つめ、問いかける。不二が答えやすいように、疼く躰を揺らしながら。
「いいよ。手塚がそれを望むなら」
 ふっ、と口元を歪ませて微笑う。自分の中に沸き起こっている熱を隠すような言い方。だが、その眼はオレに向かって真っ直ぐに向かっている。
「好きだ、不二」
 キスをして、その背に爪を立てる。痛みに顔を歪めながらも、不二はそれに答えるようにオレの躰に歯を立てた。
「僕も、好きだよ」
 捉まえた。もう、離さないから。
 不二の呟きは、同じ言葉をなぞったオレの声にかき消された。
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