83.髪を切る(不二切)
「ちょーっと、ほら、動かないで!」
「イテテっ。ちょっ、髪引っ張んないでくださいよ」
「だって、切原くんが動くからいけないんでしょう?ほら」
 オレの頭を掴み、無理矢理前を向かせる。直ぐ間近にある真剣な不二サンの顔に、何となく顔が赤くなっちまう。
「……別に髪なんか切らなくてもいいし」
「駄目。もう大分伸びたんだから。眼、悪くしちゃうよ?」
「自分でも切れますって。切ればいいんでしょ」
「それも駄目」
 鋏を奪おうと伸ばした手を、あっさりと掴まれた。引き寄せられ、キスをされる。
「っ。だからアンタは。髪切るんじゃなかったんスか?」
「だって、こうしないと大人しくしてくれないでしょ」
 クスクスと微笑いながら、またキスをしてくる。触れるだけのそれを繰り返すたびに、オレの顔はどんどん赤くなっていき、身体の自由も奪われていく。
 どういう仕組みでそうなるのかは知らないが、オレは不二サンにキスをされると動けなくなっちまう。それに気づいたのは、不二サンの方が先だった。だからオレは、こうしてこの弱点らしきものを隠す事も出来ず、敵にも思える相手に曝してしまう羽目になっちまった。
 一生の不覚だ。
「はーい。じゃあ、切るよ」
 耳まで真っ赤になって動けなくなっているオレを愉しむかのように微笑うと、手際良く鋏を入れた。パラパラと、目の前を髪が落ちていく。
「ハイ。終わり。どう?」
 顔から熱が引かない所為でまだ動けないでいるオレの為に、不二サンは鏡を向けてくれた。そこに映る自分の顔を見て、頬の熱が急速に引いていくのを感じる。
「何でこんなっ…短すぎっスよ」
 そこに映った自分の前髪は、眉にかかるかかからないかの長さに切られていた。ショックで動けるようになったオレは、不二サンの手から鏡を奪い取ると、もう一度自分の髪を見た。
「酷いっスよ。もう戻ってこないのに」
「でも、これで眼が悪くなる心配は無いし。髪なんて直ぐ伸びるって」
 知ってる?エッチな男の子って髪が伸びるの早いんだって。
 オレの気持ちも知らないで。不二サンはクスクスと愉しそうに微笑う。ああっ。ムカつく。
「じゃあ、不二サンのオレが切ってやりますよ」
「いいよ僕は」
「いいや。切ります。だってほら、不二サンの前髪も眼にかかる位置だし」
 不二サンの肩を掴み、押し倒す。その上に跨ると、テーブルの上に置かれていた鋏を手に取った。
「動かないで下さいよ」
 わざとらしく不二サンの目の前で鋏を動かす。ニヤリと微笑って不二サンを見つめると、ニヤリとそっくりそのまま笑みを返された。
「っ」
 その笑みの意味に気づく間もなく、唇が重なる。不二サンはオレの手から鋏を奪うと、首に腕を回して深く侵入してきた。勿論、オレは動けない。
「残念でした」
 位置を入れ替えオレを見下ろすと、不二サンは愉しげに微笑ってまたキスをした。
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