89.精霊(不二塚)
「精霊ってね、どんなモノにでも宿ってるんだって」
 カメラを宙に向け、一度だけシャッターを切ると、不二は呟いた。風を感じるかのように深呼吸をした後で、オレへと視線を移す。
「それでね。見ようと思えば、誰にでも見れるんだって」
 愛用のカメラをバッグにしまうと、不二はオレの手を取り、指を絡めてきた。楽しそうに腕を振って歩きだす。
「……それが、どうしたというんだ?」
 手を引かれるようにしてオレも歩き出すと、不二の隣に並んだ。覗き込むオレと、不二の眼が合う。
「だから、僕も頑張れば見れるかなって」
「精霊をか?」
「ううん。手塚の僕への愛を、さ」
「なっ…」
 言葉をなくしたオレに、不二は楽しそうに微笑った。
「まあ、僕じゃ幾ら頑張っても見えないだろうけどね」
 だって君は何処までも綺麗で。穢れている僕の眼には、きっと映らないから。
 同じ口調で、言う。だが、不二はもうオレを見ていなかった。
 溜息が出る。
「だったら、見えるようにしてやる」
「……え?」
「そうすれば、お前にだって見ることが出来るだろう」
 言いながら、自分の顔が赤くなっていくのを感じて。オレは不思議そうに見つめる不二から眼をそらした。かわりに、繋いだ手を強く握る。
「ありがと」
 呟く声と共に、オレの頬に温もりが宿った。



「……ふふっ」
「何を微笑っているんだ。気持ち悪いぞ」
「だって。早速、見せてもらったなって思ってさ」
「何をだ?」
「手塚の、僕への愛を、だよ」
「…………馬鹿。」
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