94.二人組(不二リョ)
「最近、僕と越前くんって一緒にいるよね」
 ベンチに座ってファンタを飲んでいると、背後から妖しげな声と共に腕が伸びてきた。振り返る前に、強く抱きしめられる。
「……アンタがくっついてくるからっしょ」
 俺は溜息混じりに呟くと、ファンタに再び口をつけた。
 こうなってしまったら腕を振り解くのはなかなか大変で。それに、下手をしたらファンタを自分の服に零してしまう可能性もある。とりあえずは、今持ってるファンタを飲み干さないことにはどうにもならない。
「だってさ」
 俺がファンタを飲むのを邪魔するかのように、先輩は強く俺を抱きしめると、耳元に唇を寄せた。
「僕って言うと、大体のヒトは英二を連想するじゃない。まあ、クラスが一緒だし僕も英二は好きだからいいんだけど」
「いいんだったら、何でそんな不満そ…」
「それで、越前くんって言ったら、まぁ大体のヒトが思いつくのは桃だろうね。君たち、仲が良いから」
「別に。仲がいいわけじゃないっすよ。桃先輩が構ってくるだけっス」
「でもね。僕は、越前くんと一緒にいたいわけ」
 俺の言葉の大半を無視するようにして、先輩は言った。何を言いたいんだかは理解ったけど。それじゃあ、俺の意志はどうなるの?って感じだ。
「俺は誰ともコンビ組む気は無いっスよ。勿論、不二先輩とも」
 『先輩』を強調して言う。俺は残っていたファンタを一気に飲み干すと、先輩の腕から何とか抜け出した。向きを変え、不自然な態勢でベンチにもたれている先輩を見つめる。
「残念でした」
 ふ、と微笑ってみせる。その事に、先輩は深く溜息を吐いてうな垂れた。はず、だったのに。
「残念でした」
 顔を上げた先輩は、俺と同じ台詞、笑みを返すと、ベンチを飛び越えて俺を抱き締めた。そのままベンチに座り、俺を無理矢理その膝に座らせる。
「ちょっ、放してくださいよ!」
「だったら、また自力で抜け出してみなよ」
 クスクスと微笑いながら、俺をギュッと強く抱き締めてくる。その顔は余裕の表情なのに、その力は凄くて。俺は幾ら必死にもがいても抜け出せないでいた。
 そんな俺たちの前を通る、人影。
「……ちょっ、菊丸先輩、助けてください」
 必死で菊丸先輩のほうへ手を伸ばす。けど、菊丸先輩はニヤニヤするだけで、俺の手を取ってくれようとはしなかった。横目で見えた不二先輩の不敵な笑みに、嫌な予感がする。
 兎に角、このままじゃ…マズイ。
「不二と越前って、最近ほんっとーに仲良いよにゃ。いっつもくっついてるし。なんか、怪しいにゃー」
「仲良いわけじゃないっスよ。このヒトが勝手に…」
「ほら、そうやってムキになって否定する所が、ますます怪しいぞ」
「だから、そんなんじゃないって。不二先輩、いい加減放してくださいよ。このままだと変に誤解され…」
「英二」
「にゃ?」
「その噂、どんどん流しちゃって」
「オッケー」
「だーっ、ちょっ。不二先輩。っと、菊丸先輩!!」
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