95.夜明け(不二リョ)
 隣で眠っている彼を起こさないように気をつけると、僕はベッドから抜け出した。窓辺に座り、ブラインド開ける。
 現れたのは、四角く切り取られた藍色の空。そして、無数の光。
 真っ暗な夜中よりも、夜明け前の方が星の色がはっきり見える気がするのは、僕だけだろうか。
 確かに、闇の中では色のあるものは全て輝いて見えるけれど。きっとそれは、全て同じ輝きに見えるはずだ。その闇自体も僅かながらでも輝きを持っている方が、きっとその色がどんな風に輝いているのか理解る。
 だから僕には理解った。彼の、リョーマの輝きが。
 窓から吹き込んでくる、夏なのに冷たい風。髪を攫う心地良さに僕は眼を細めたけど。彼には少し刺激が強かったようだ。
「……ん」
 小さく声を漏らし、もぞもぞと布団の中でカラダを丸めるのが理解った。その猫のような姿に、思わず笑みが零れる。
 小学校の頃の夏休み。昼夜逆転の生活で、こうして朝焼けを待っていた日が在った事を思い出した。その日はいつも、こうして窓辺に座り、ワクワクしながら家々の間から白い陽り(ヒカリ)を放つ太陽を待っていたっけ。尤も、中学でテニス部に入ってからは、昼夜逆転の生活なんて出来なかったのだけど。
 窓の外に視線を戻すと、家の輪郭を辿るように白い陽りが走っていた。あのときの、ワクワクする感じが蘇ってくる。でも、それは久しぶりに抱く感情なんかじゃない。
 彼と試合をしたときに、感じた。
 星よりも鋭く、太陽よりも明るく。彼の輝きの色はまだはっきりとは見えないけど。それがどれだけ綺麗なものであるかくらいは、僕にだって理解る。
「早く見せてよ、君の色を」
 まだ眠りの底に居る彼に向かって呟くと、僕は生まれて初めて自分のテニスの才能とやらに感謝した。
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