98.週末の過ごし方(不二リョ)
「ねぇ、越前くん」
 ミーティングの後、コートに出た俺に先輩は笑顔で話し掛けてきた。それだけで、何を言おうとしてるのかは大体理解る。
「今週の土日は部活無いって言うしさ」
 いいでしょ?耳元に唇を寄せて囁く。かかる吐息に一瞬顔が赤くなったけど。周りにはメンバーもいるから。
「別にいいっスけど」
 俺は動揺を悟られないように、溜息混じりに呟いた。良かった、と呟いて嬉しそうに微笑うと、先輩は背筋を伸ばした。俺を追い越してコートに向かおうとするその腕を、掴む。
「何?」
「その代わし、俺と試合してください。どっちか一日でいいんで」
「…また、それ?」
 いい加減にしてよ、とでもいいたげな口調。それがムカついたから、俺は掴んでいた先輩の腕に爪を立てた。先輩の顔が、僅かに歪む。
「だって不二先輩、全然俺と試合してくれないじゃないっスか。それに、『また』っていうのは、不二先輩も同じっしょ。たまの休日って行っても、やることはいっつも同じで」
 どっちかの部屋でぼんやり同じ時間を過ごして、そのまま夜になだれ込む。別に嫌だとかは思わないから、拒まなかったけど。よくよく考えてみると、別に俺はどうしてもそれがしたいっていうわけじゃない。
「アンタばっかやりたいことやってて、なんかズルイ」
 口を尖らせて言う。先輩は苦笑すると、自由な方の手でオレの頭を撫でた。そのことで、俺はまだ先輩の腕に爪を立てたままだという事を思い出した。慌てて手を離すと、血は出ていなかったものの、そこには深く痕が残ってしまっていた。
「じゃあ、いいよ。越前くんが一番したいことしてあげる」
 腕の後も気にせずに先輩は微笑うと、俺の手を引き、空いているコートに向かった。
「何するんスか」
「だから、試合だよ。本気の、ね。だって、それがしたいんでしょ?」
「だからって…」
 何も、今からやらなくても。
 言葉にせずに先輩を見つめる。と、先輩は俺から手を離し、微笑った。
「越前くんが一番やりたいことを今やって昇華しちゃえば、二番目にやりたいことが一番目に来るでしょ。多分それは、僕が越前くんとしたいことと、同じだと思うから」
 だから、試合しよ?言うと、先輩は俺に背を向けた。自分のコートへと向かうその背中に、俺は、まだまだだね、と呟いた。先輩の足が止まる。振り返る先輩に近づくと、俺はその眼をじっと見つめた。
「どんなに俺と試合したって、週末にアンタとやりたいことの二番目は、一番目に来ないっスよ」
「……越前くん?」
「だって俺は。俺が、周助と一番したいのは――」
 踵を浮かせ、また地につける。見上げると、先輩は少し赤い顔で嬉しそうに微笑っていた。



「そんなにリョーマが望むなら、毎日でもやってあげるよ」
「調子に乗らないで下さいよ。俺は、週末に一番したいことを言ったんスよ。毎日とは言ってないっスからね」
「……冷たいな」
「それに」
「ん?」
「……体力、持ちそうにないし(睨)」
「あはは…」
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