100.卵(不二大)
「あー。そっか」
 部活の昼休み。おれの隣で弁当箱を開けた不二は、突然声を上げた。
「どうした?」
「何かに似てると思ったんだよね。髪切ってさ」
「おれ?」
「そう」
 不二は頷くと、弁当箱に入っていた玉子焼きを箸で掴んだ。小さい口で、その半分だけを食べる。
「おれが、何に似てるって?」
「だから、これだよ」
 口の中のものを空にすると、不二はまだ箸に残っていた玉子焼きをおれの目の前に持ってきた。
 頭にはてなを浮かべたおれをみて、ニッと微笑う。
「玉子焼きじゃないよ。その前のヤツね」
「……鶏、か?」
「行き過ぎ。卵だよ、卵。大石、頭の形いいからね」
 だからかな。卵を見てると、握りつぶしたくなるのは。呟いて、残りの玉子焼きも口に放った。
 本気なのか冗談なのか理解らずに不二を見つめていると、それに気づいたのか、冗談だよ、と不二は微笑った。
 溜息を吐き、おれも自分の弁当に箸をつける。
「あ。これね、僕が作ったの。はい、あーん」
 口の中に入れたものがなくなったのを見計らってか、不二は言うとおれに玉子焼きを差し出した。その行動に少し頬を赤らめながらも、不二に従う。
「どう?美味しい?」
「あ、ああ」
 頷くと、不二はあからさまに安堵の溜息を吐いた。
「良かった。これ、大石の好みの味に合わせて作ったんだよ」
 嬉しいでしょ?訊いてくる不二に、おれは、ありがとう、と微笑った。それに満足したように不二も微笑ったが、思いついたように真顔になると、でも、と呟いた。
「これって、共食いになるのかな?だって大石、卵だし」
「おいおい。いくらなんでもそりゃないよ。確かにおれは卵に似てるかもしれないけど。中身は人間だ」
 溜息混じりに言うおれに、不二は声を上げて微笑った。
「だから、冗談だってば」
 言って、オレの額を人差し指で小突く。
「でも。これで僕は、今までよりも卵を好きになれそうな気がするかな」
 楽しそうに言う不二に、おれは額をさすりながら、何故、訊いた。さっきおれを小突いた人差し指を、目の前にピンと立てて不二が微笑う。
「だってほら、大石を食べるんだって思えばさ。何か結構楽しめそうじゃない」
「なっ…。また、そんな冗談を」
「これは本気なんだけどな」
 まあ、今はホンモノが目の前に居るから、そんな考えはしないけどね。
 クスリと微笑うと、不二は赤くなってしまったおれの頬にキスをした。
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