103.声(不二リョ)
「リョーマ」
 二人きりになると出てくる、俺の名前。優しい声。
「リョーマ、好きだよ」
 その声に自由を奪われた俺は、いとも容易く抱き寄せられ、口づけをされる。
「や、めてくださいよ。人が見てたらどうするんスかっ」
「どうせ誰も見てないよ」
 慌てて身体を押し退ける俺に、先輩は全てを理解ってるとでも言うような笑みを見せた。
 繋いだ手。指を絡めて歩く。
 さっきよりも少しだけ、歩調が速まったと思うのは、気のせい?
「不二先輩」
「周助、だよ」
「……周助」
「ん?」
「なんか、歩くの速くなってない?」
 見上げて訊く俺に、先輩はクスリと笑った。手を解き、俺の額にかかってる髪を掻き揚げ唇を落とす。
「っ。だから、人が見てたら…」
「だから、急いでるんだよ」
 俺の言葉を遮るように、けれど穏やかな声色で先輩は言った。頭にはてなを浮かべた俺に、また、微笑う。
「人が見てるから嫌なんでしょう?だったら、人の居ない所に早く行きたいなって思ってね。それに」
 こんなに離れてたら、僕から君へのせっかくの甘い愛の言葉も、漏れて言っちゃうだろうしね。
 少し身を屈め、俺の耳に唇を寄せて言うと、先輩は姿勢を戻しクスクスと微笑った。その言葉の内容よりも、間近で聴いた先輩の低く甘い声に顔が熱くなる。
「僕も、いちいち屈んでたら腰を痛めそうだし」
「……そんなの」
 俺の頭を優しく撫でる先輩の手を取ると、俺はもう一度指を絡めた。
「そんなの、アンタの勝手でしょ」
「そう。僕の勝手。でも、好きでしょう?」
 何が、と言わず問い掛ける。正直に頷くのも恥ずかしいけど、否定するのも何か言われそうで。
「さあね」
 呟くと、俺は足早に歩き出した。先輩の手を、しっかりと握って。
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